画期的な本
『「東京DEEP案内」が選ぶ首都圏住みたくない街』(逢阪まさよし+DEEP案内編集部/駒草出版)
これは名著である。これから数年、私の座右の書となろう。
よくもこれだけたくさんの街を歩いたものだ。都心をはじめ、23区内の街も多数扱われているが、三多摩、千葉、埼玉、神奈川の、普通は決して行かない無数の街、場末、ドヤ街が網羅されている。私も相当いろいろな街を歩いたが、とても叶わない。私はドヤ街にはあまり行っていないし、それ以外でも全然知らなかったこと、知らなかった街がたくさんあることに気づかされた(世田谷の高級住宅地・深沢に古い商店街があるとは!)。
23区内の場末、ドヤ街、旧赤線、青線を訪ねた本は数多い。代表例は1986年に出た西井一夫の『昭和二十年東京地図』(筑摩書房)。また、旧赤線に限って全国を歩いた木村聡の『色街百景』(彩流社)などもある。だが、ここまで首都圏を広域に、細かく、名もない街を訪ね、フィールドワークした本は珍しいだろう。
もうひとつの郊外
本書は一種の郊外研究でもある。長らく郊外を研究してきた私が言うのだから間違いない。だが、私をはじめとする郊外研究者は、郊外を中流階級が住む新興住宅地を中心に調べてきた。しかしそれだけが郊外ではないのだ。
フランスでは郊外は中流階級のサラリーマンが住む場所ではなく、移民を多く含む労働者階級の住む場所だ。近年、移民の2世が暴動を起こし、さらにはISに共鳴してテロリストになってしまうことが問題視されている。それくらい郊外には不満が鬱積している(詳しくは森千香子『排除と抵抗の郊外』<東京大学出版会>参照)。
日本の郊外はイギリスやアメリカと近く、中流階級が住むのだが、よく見ると、それだけではない。フランス型の、外国人を含む労働者階級が住む郊外も、大正時代以来、半ば自然発生的につくられてきた。
ただし、それは必ずしも住宅地というものではなく、川沿い、湾岸等の工場地帯のバラックだったり、簡易宿泊所、アパート、団地だったりした。それらの住まいが密集する地域が、本書の言う「住みたくない街」なのだ。