日本の地域医療の崩壊が加速する。原因は、今春から始まる新専門医制度だ。従来、専門医の資格は、日本内科学会や日本外科学会、あるいはその下部組織である日本循環器学会や日本心臓血管外科学会などが独自に認定してきた。学会によって質にバラツキがあることが問題視され、中立の第三者機関が認定することが求められた。そのために立ち上がったのが、一般社団法人日本専門医機構(吉村博邦理事長)だ。
専門医機構は、主要な19領域の診療科を対象に、専門医を認定することとなった。厚生労働省もこの組織を支援してきた。厚労省の目的は専門医のレベル向上に加え、都道府県や病院ごとの専門医育成の枠を制限することで、医師の地域偏在や診療科の偏在を是正することだった。今年の通常国会に提出する医療法改正案では、専門医機構と連携し、都道府県等の調整に関する権限を明確化し、診療領域ごとに地域の人口、症例数に応じた地域ごとの枠を設定する方針だ。
昨年12月15日、専門医機構は新専門医制度の1次募集の結果を公開した。新制度には7791人の医師が応募した。初期研修を終える医師の約9割となる。基礎研究や厚労省など行政職に進む一部の医師を除き、今春3年目を迎える若手医師のほとんどが、新専門医制度のカリキュラムに応募したことになる。
この結果を仙台厚生病院の遠藤希之医師と齋藤宏章医師が分析した。専門医機構は専門研修の充実に加え、診療科と地域偏在を是正することを目標に掲げていた。ところが、結果は正反対だった。
遠藤医師らは、今回の応募者と、厚労省が発表している「平成26年都道府県別医籍登録後3―5年目の医師数」を比較した。この調査では、比較対象を何にするかが難しい。従来の学会は任意参加であり、日本内科学会の会員数が正確な内科医の数を示しているわけではない。私もそうだが、日本内科学会に所属しない内科医が大勢いる。ところが、新専門医制度が始まり、内科医を志す若手医師は、日本内科学会への加入が実質的に強制されることとなった。このため、過去数年間の日本内科学会の新規登録会員数と、今春の応募者を比較することは妥当ではない。