冬は目にとって過酷な季節であり、空気の乾燥はドライアイを悪化させる原因ともなる。さらに、ドライアイでのコンタクト使用による目のトラブルも多い。特に長時間のコンタクト装着によって「アカントアメーバ角膜炎」という重篤な疾患を引き起こすことがある。
アカントアメーバ角膜炎の症状とコンタクト使用の注意点について、名古屋市昭和区円上町の田辺眼科クリニック院長、田辺直樹医師に聞いた。
「アカントアメーバは、土や水の中にごく普通にいる原生生物です。水道水の中にも存在していますが、通常は無害です。しかし、角膜にキズなどがあると、そこからアカントアメーバが侵入して、角膜で増殖しアカントアメーバ角膜炎を起こすことがあります」
もちろん、普段の入浴や洗顔で水道水が目に入っても問題はなく、アカントアメーバ角膜炎の原因のほとんどは、コンタクトの誤った使用法にあるという。
「コンタクトを水道水で洗って使用し、さらに長時間装着してしまうと、閉塞された状態となり、アカントアメーバがいた場合、何倍にも増殖してしまいます」
アカントアメーバ角膜炎の症状はさまざまだが、初期に受診することが重要である。
「目の違和感や充血、強い痛みがあり、悪化すると角膜の中央が白く濁り、角膜に孔(あな)が開いてしまい、視力低下が進み失明することもあります」
アカントアメーバ角膜炎を起こす確率は高くないものの、感染するとその後の生活にも支障をきたすような後遺症が残ることもある。
コンタクトケアの重要性
アカントアメーバ角膜炎の患者の90%以上が、コンタクト使用者ともいわれる。
「コンタクトを長時間装着することもリスクがありますが、誤った方法でコンタクトを使用している人が少なくないのが現状です。水道水でコンタクトを洗ったり、装着する前にコンタクトを舐めてしまう人などもいます。水道水にはアカントアメーバがいることもありますし、口腔内にはさまざまな菌がいるので、そういった菌が付着したコンタクトを装着することは非常に危険です。必ず、コンタクト専用の洗浄液や保存液、装着液を使用してほしいと思います」
また、最近では、ファッションとしてカラーコンタクトを使用する人も増えているが、カラーコンタクトによるトラブルも多いという。
「カラーコンタクトの中には、粗悪な製品もあります。酸素の透過性などがまったく考えられていないものや、色素が強く角膜に色が付着してしまったケースもあります」
コンタクトは高度管理医療機器であり、製造販売には許可が必要となる。カラーコンタクトでも同様であるため、購入の際は許可を受けたメーカーが製造するコンタクトを選んでほしい。
「アカントアメーバ角膜炎の治療は、特効薬はないため抗真菌薬の点眼液を使用します。症状によっては、感染した角膜表面を削る治療を繰り返すこともあります。治療は長い期間を要することもあります」
最悪の場合、失明に至ることもあるアカントアメーバ角膜炎は、何より予防が重要となる。
「正しいコンタクトケアはもちろんですが、ドライアイの人がコンタクトをすると、より乾燥しやすく、角膜に傷がつきやすくなるので、ドライアイを放置しないことも大切です。コンタクトの人はメガネを併用し、家にいる時間はメガネにするといいでしょう。ドライアイを治療する点眼液もありますので、ドライアイに悩む方は放置せず眼科医を受診してください」
若い世代を中心に、気軽にコンタクトレンズを使用する人も多いが、正しく使用し、かつ装着時間を短くするなど生活スタイルにも気を付けてほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)