東京証券取引所市場第一部の株式時価総額が、バブル期のピークを超えた。上場銘柄数が著しく増えているため単純な比較はできないが、現在の日本経済にとってはいいことだ。また、公募の投資信託の純資産残高が、4月末で99兆1636億円となっており、100兆円が間近に迫っている。こちらも、金融・資産運用業界にとって朗報だ。
しかし、筆者が少なからず懸念している数字の急膨張がある。投信全体の純資産に対して、まだ大きくはないが、「ラップ口座」の残高が急伸しているのだ。
ラップ口座とは、個々の顧客に対して、証券会社や信託銀行が担当者を充てて、顧客に合った運用をオーダーメードで提供するサービスを指す。運用商品の売買手数料が1年単位で事前に決まっていて、「ひと包み」で包括的に契約する。「ラップ」には、ラッピングの意味があるというわけだ。
つまり、ラップ口座は、商品の入れ替えを何度行っても、売買手数料は一定のままだ。もともとは、預かり資産残高が数千万~1億円以上ある顧客が対象だったが、運用対象商品を通常の投信にした、通称「ファンドラップ」では、数百万円レベルの顧客も対象にするようになった。
5月25日付日本経済新聞記事『ラップ口座4兆円超え 残高1年で2.8倍』によると、ラップ口座の残高は4月末に4兆円を超えたという。3月末時点で、1位の野村證券が1兆3400億円、2位の大和証券が1兆2420億円で、それぞれ前年比で5.5倍、2.2倍に相当する。
先行していた大和を野村が最大手の意地で逆転したような推移だが、証券業界がいかにラップ口座に力を入れているかがわかるだろう。
証券業界がラップ口座に力を入れるワケ
証券業界がラップ口座に注力する大きな理由の一つは、金融庁が投信の頻繁な乗り換え勧誘や、顧客を不適切な商品に誘導することに対して、徐々に厳しくなっている、という背景がある。
金融庁の調査によると、本来、長期の資産形成手段であるはずの投信の平均保有期間は約2年だという。平均1.5%以上と高い信託報酬(運用管理手数料)に加え、2年に一度、2~3%の販売手数料を払うとなると、顧客は手数料を払いすぎだ。
さらに言えば、もっと頻繁に投信を乗り換えるように勧められ、さらに多額の手数料を払っている顧客も存在する。
また、毎月分配金を払うタイプの投信では、歪んだ運用で分配金だけ高利回りを出し、それを餌にして判断力の乏しい投資家(主に高齢者)を釣るような商品および販売方法が横行している。