(3)損益率や損益額に縛られる
当たり前のことですが、投資は売却し換金して初めて完結します。しかし、「もっと上がるかも」「高値から落ちたので、再びその値に戻なるまで」「キリの良い値段になったら」「ここで売っては損だから」などと、とかく勝手な都合を当てはめ、「買い」には思い切りが良い割に「売り」に躊躇しがちになります。目的が漠然としているために行動の成果である損益率や損益額に目が向くのです。いつまでに、いくらのお金が必要であるのか、肝心の投資資金そのものを意識できていれば、このような迷いは起こりにくいといえます。
いかがでしょうか。上記のような行動を避けるためには、やはり投資を行う目的をしっかりと定め、それに合った方法を選択することが理想といえましょう。
明確な投資目的を意識するのにNISAはうってつけ
NISAをひとことで表すと、年間投資金額とその保有期間に制約を与え、譲渡損益にかかる税務を一切不問とする制度です。この制限によって、デメリットがあることも否めません。
しかし発想を変えてみると、投資金額や保有期間に縛りがあるので、「のめり込みすぎ」や「放置しすぎ」に陥る事態は減らせます。譲渡損失に対する税制上の救済措置はありませんが、逆に投資の成果を現実問題として向き合わざるを得ません。投資を行う目的とは、その投資によって得たお金で「何に使うのか」を定めておくことにほかなりません。損益率や損益額ではなく、換金時の金額で当初の目的を果たせるか否かが大切です。さらにいえば、その目的をちゃんと果たせたのなら“プライスレス”です。
例えば、投資目的を「旅行や耐久消費財の購入」としてはいかがでしょうか。投資の成果によって果たせたグレードは変わるかもしれませんが、換金しその目的を実現した後には投資成果云々は割り切れるものです。この、「投資した目的を実現してみる」ことの積み重ねがとても大切と考えます。とはいえ、なにも年間限度額まで投資する必要はありません。また、投資期間ギリギリまで保有する必要もありません。極端な話、1年後の旅行資金のためにNISAで10万円を投資してみて、その結果が投資した金額以上でも以下でも、旅行に行ってしまえば満足感は変わらぬものです。投資において最も大切な「目的」を養える意味でも、NISAはその短所にこそ注目したいところです。
DCにおける税制上のアドバンテージは無視できない
DCの最大の欠点は、いったん始めたら原則として途中で投資資金を引き出せず、老後までその資金が拘束される点です。しかし裏を返せば、多くの方が考える「老後資金」目的のための投資手段として、これほど適したものはありません。
基本的に長期の投資になればなるほどリスク(リターンのブレ幅=投資の成果)は拡大します。したがって、ある資産への盲目的な長期保有は避け、適宜売買を行うのが堅実なセオリーです。複数資産への分散投資を行っている場合も、騰落率に応じて変化したポートフォリオのバランスを修正するためにもリバランスは不可欠でしょう。この際、利益の出た資産を売却しても、つど課税の生じないDCの制度は極めて効率的です。
また、DCへの投資資金が税制における所得控除の対象となる点も見逃せません。一般的に確定申告を行わない会社員でも、年末調整で徴収された税金の一部が戻ってきた経験はあると思います。これは給与や賞与時には考慮されていなかった各種所得控除が年末調整で反映されたためで、この所得控除の中には生命保険料控除や個人年金保険料控除等も含まれます。ただし保険料控除額は、年間払込保険料の一部しか対象になりません。
これに対してDCの掛金は、その全額が毎年控除対象に認められます。つまり、投資資金が多ければ多いほど毎年の税金を安くする効果があるわけです。会社や個人事業主の経費が多くなるほど税金が安くなるのと同じですね。しかしDCの掛金は経費ではなく、あくまでも将来に自分へ戻ってくる投資資金です。一般的な投資はもちろん、NISAですらその投資資金は税金を引かれた後の可処分所得内で行わねばならないのに対し、この仕組みは大きな利点といえましょう。何もしなければ取られていたはずの税金が浮く分だけ、すでに投資成果と考えることもできるのです。
さて、このDCですが、これまで利用することのできなかった専業主婦等や公務員、一部の会社員などにも、2015年度の税制改正によって拡充される予定です。実施時期までにはまだ間がありますが、是非とも注目しておきたいところです。
株式や投資信託等への投資を初めてチャレンジしようと思っている人は多いと思います。投資へのカムバックや投資資金のレイズを果たしている人も少なくはないでしょう。考えようによっては投資の本来的なスタンスに適うNISAやDCに注目してはいかがでしょうか。また、すでにこれらの制度を漠然と行っている人も、あらためて見直してみましょう。
(文=井上信一/ファイナンシャルプランナー・高齢期のお金を考える会)