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さんきゅう倉田「税務調査の与太話」

過去の経費を数年に分散して計上→税務調査で「仮装」と判断され、重加算税を賦課!

文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人
過去の経費を数年に分散して計上→税務調査で「仮装」と判断され、重加算税を賦課!の画像1
「Getty Images」より

 元国税局職員、さんきゅう倉田です。浮気を追及されたときに言いたいセリフは「請求人の主張には理由がない」です。

 今回は、税務調査によって経費の水増しが明らかとなった法人が、「水増しは、過去に少なく計上していた仕入れを修正したもの」だと主張した事案です。果たしてこの行為は、税務調査でよく問題になる「仮装・隠ぺい」に当たるのでしょうか。

 調査担当者は、モルタル製造業を営む法人Aに対し、電話で事前に連絡をし、調査対象税目と対象期間を通知して、税務調査を行いました。すると、2年間にわたり、材料の仕入れを過少に計上し、その後の数年の事業年度で、過少にしていた分を損金処理していたことがわかりました。

 具体的には、経理担当者が仕入れの金額を減額する仮装経理を行い、これを帳簿外で管理し、退職時に後任の経理担当者にその金額を伝え、数年にわたって損金にするように指示していました。いわゆる「不正」は、納税を免れるために売上を除外するか架空の経費を計上しますが、この法人は一時的に経費を少なく計上し、多く納税していたのです。そしてそれを数年後に、恣意的に損金に算入していました。

 調査担当者は、実地の調査で、請求書が存在しない仕訳伝票を把握しました。請求書が存在しない理由を経理担当者に確認したところ、前経理担当者から経理事務を引き継ぐ際に、過去に経費に算入していなかった仕入れについて、各事業年度に分けて計上するよう言われて500万円ずつ計上した旨の回答を受けました。

 過去の仕入れを別の年に勝手に損金にしていたのです。実際には、その年に仕入れていないのに、そのように仮装していたわけです。

 どうして、そんなことをしたのでしょうか。前経理担当者は、一度に多額の仕入を計上すると、金融機関から借入金の返済要求がされるなどの影響が生じると考え、仕入れを過少にすることを考えました。

 しかし、実際には仕入れているので、支払いは発生します。すると、帳簿上の支払いと実際の支払いが合わなくなってしまいます。そこで、その後数年にわたって戻し入れることを考え、後任の経理担当者に引き継いだのです。

過去の「経費」を、任意の事業年度で損金扱いにできるのか

 調査担当者は、これらの行為に対し、仮装があるとして重加算税を賦課しようと考えました。しかし、社長は抵抗します。

「我々の行為は、重加算税取扱指針において例示されている帳簿書類への虚偽記載に当たりません。架空の経費を計上したわけではなく、あくまでも損金に算入していなかった過去の経費を損金にしただけです。これは実際にあった取引なのです。このような行為は、仮装経理の修正経理として認められているはずです」

 これに調査担当者は、こう答えます。

「社長は、戻入れ処理をした仕入れが過去の事業年度に実際にあった取引であるとおっしゃいます。事実そうなのでしょう。しかし、過去の事業年度に実際にあった取引か否かは、重加算税の賦課要件の充足に影響を与えません。仮装そのものがあったか否かが判断の材料となるのです。 また、会計上は粉飾決算に代表されるような仮装経理が、その後の事業年度で修正経理をすることが認められています。しかし、『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』に従って、過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映することとされていますが、そのような正式な手続きをされていません。誰に知恵を入れられたのか、税務調査があってからそのような主張をされても意味がありません」

 社長は、帳簿上の仕入の支払い残高を、実際の残高に修正するために行ったと主張しましたが、仕入れは過去の売上に対応するものであり、それを別の年の売上に対応する仕入れとして計上していれば、立派な「仮装」です。十分に重加算税の要件を満たします。

 一介の経営者が、仮装経理の修正経理を知っていたとは思えないので、専門家に唆されたのかもしれません。その“専門家”に手数料を支払うくらいなら、争わずに納税したほうがコストを抑えられたはずです。会社のために何をすべきか、考えさせられる事案でした。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。著書に『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)、『お金持ちがしない42のこと』(Kindle版)がある。
さんきゅう倉田公式ホームページ

Twitter:@thankyoukurata

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