非正規社員、今月から正社員との「同一労働同一賃金」開始…より多く給料をもらう方法
新型コロナウイルスの感染拡大で小中高校が臨時休校となり、子どもを持つ非正規社員のなかには仕事を休んだ人も多かったでしょう。非正規社員は働き始めて半年以上経過していれば、週に4日勤務の場合、7日間の有給休暇を取得可能ですが、多くの人は無給休暇を取得していたようです。時給1000円で1日8時間勤務、2週間(10日間)の無給休暇を取得した場合、8万円ほど収入が減ります。
有給取得にしても「どうせ非正規社員だから」と諦めがちですが、4月から「同一労働同一賃金」がスタートし、同じ仕事内容であれば正社員と同じ時給をもらえるようになります。しかし、本当でしょうか? 実は、その算定方法には条件があります。
深夜早朝の時給が高い時間帯に働く非正規社員
まず、パート社員の実態を把握しましょう。正社員が働きたがらない夕方5時から朝の8時までの時間帯に、多くの非正規社員が働いています。「2017年版パートタイマー白書」(アイデム 人と仕事研究所)によると、夜10時から早朝6時まで働いているパート主婦は全体の6.6%で、10年前の2倍にも増加しました。さらに、夕方5時から早朝8時までだと66%にも該当します。学生や主婦以外含めるともっと増えます。時給が少しでも高い時間帯に働く主婦の非正規社員が増加しているのです。
非正規社員の増加により、1人当たりの労働時間が減る
2018年から配偶者特別控除が受けられる収入の上限が103万円から150万円に引き上げられ、時給1000円なら年間470時間、1日1時間ほど多く働けるようになったにもかかわらず、実は一人当たりの働く時間はあまり増えていません。
総務省統計局「労働力調査」によると、2019 年、正社員は前年比 18 万人増加ですが非正規社員は45 万人増加し、ここ10年で2倍以上に増加しています。会社は人材確保のため人を多く雇い、一人当たりの労働時間を増やさなくてもよくなったのです。2018年のパート社員の年間労働時間は、前年比10時間ほどの減少で、この傾向は7年ほど続いています。
同一労働・同一賃金の実現
働く時間が増えないということは、非正規社員が給料を増やすためには、同一労働・同一賃金しか期待できません。しかし時給を正社員と同じにするといっても、日本の場合、給与の種類が多く、複雑です。
給与の種類には「生活給」「職能給」「役割給」があります。「生活給」は家族手当、住宅手当、転勤にともなう地域手当など、扶養家族の生活費を基準に算定される固定給のことです。「職能給」は技術、資格やストレス耐性などの潜在能力が勤続年齢に応じて区分、序列化されています。「職務給」は、営業職、事務職など業務の種類で金額が決まるもので、「役職給」は役職が区別された役割等級制度です。
私が勤務していた外資系では、ボーナス(賞与)はなかったのですが、日本企業の場合、基本給よりもボーナスなどの賞与、家族手当、地域手当、役職手当などを厚くしている企業も多く、時給としては低く設定している企業もあります。また、反映されていない残業代を計算すると、実際には時給300円という年収1000万円の人もいます。
今回の「パートタイム・有期雇用労働法」いわゆる「同一労働同一賃金」の場合、基本給・賞与・手当・退職金にあたる「賃金」と、福利厚生・教育訓練などの「賃金以外」に分けて考えます。賃金は企業が決めますが、昼食を食べる場所の確保や研修などは派遣会社が決めることになります。
同一労働・同一賃金の条件
会社側はパートや有期雇用者の成果や能力などが向上した場合、賃金を上げるという判断をしますが、それには条件があります。
派遣社員では、派遣元は労働者の賃金を決める時、(1)「均等・均衡方式」または(2)「労使協定方式」のうち1つを選択しなければならなかったのが、パートは(1)「均等・均衡方式」だけになります。
1)均等・均衡方式
「均等・均衡方式」は、同じ職務についている正社員の賃金と比べて、待遇を同等に決めることを要求することです。派遣社員の場合、企業は正社員の賃金を派遣会社に報告し、派遣社員と比較して決定しなければなりません。「均等」とは、業務内容・責任内容、責任の程度における職務内容や職務・配置の変更範囲が同じ場合には差別的扱いを禁じるものです。「均衡」も同様ですが、その他の事情の相違を考慮して、不合理な待遇差を禁じるものです。
難しいのは、正社員との業務内容の比較です。時間になればきっちり帰宅できる非正規社員とは異なり、正社員のほうが責任の程度が大きいため、単純比較が難しいのです。また、企業側にとって負担が増えないように正社員の給与を低く抑える懸念もあります。
2)労使協定方式
派遣社員の場合は「労使協定方式」では労働組合と派遣元企業の間で待遇に関する労使協定を結び、金額などを決定します。企業は、正社員と比べて賃金を決定する必要はない代わりに、厚労省が職種ごとに決める「一般労働者の賃金水準」以上の支給を定める労使協定を締結しなければなりません。「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)(賃構統計)」と「職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額(時給換算)」などで、職業、年数、経験から自分でも年収が確認できます。ただし1年目で成果を上げた人と5年目の勤務者では、技術職でない限り、その成果は、報酬に反映しづらいところもあります。
労働組合は労働者の過半数が所属していなければならないのですが、労働組合自体がない企業もあります。その場合は、労働者の過半数の代表者と労使協定を結びます。
派遣社員の場合は、派遣会社に対して労使協定の締結、労働基準監督署への届出が求められます。また同時に、派遣社員への周知も求められますので、何も聞いてない場合は確認することです。
帝国データバンクによると、人手不足が深刻な「運輸・倉庫」「サービス」「製造」を中心に対応が進んでいるようです。運送業などでは、業務内容を統一化しやすく時給計算にあてやすいともいえますが、そうでない職種においては、勤務先の会社がどちらの方法を選択して算出するのか確認しましょう。もし「労使協定方式」なら自分の時給も確認できるため交渉材料になります。しかしパート・有期雇用者は労使協定方式がないため不利です。
同一労働同一賃金(パート・有期雇用者版)は、パート社員が多い中小企業の場合は2021年の4月から実施されますが、大企業ではもうスタートしました。非正規社員でも、日頃から人事課などと仲良くなったり、自分の年収の相場を確認したり、正社員の給与などを把握しておくことが大切です。自分の評価表を作成し、客観的に自己評価をする癖をつけましょう。そうでなければ「賃金を上げなくてもいいのか」どころか「いつリストラしてもいい人材」だと思われます。どんなに制度を改正しても非正規社員に不利な状態は続いています。一人ひとりの意識も大事です。
(文=柏木理佳/城西国際大学大学院准教授、生活経済ジャーナリスト)