みなさんはどこかで、不動産屋さんのセールストークである「今ならこの物件を購入すると、月々の支払いが7万円! これは家賃の支払いとほとんど変わらない金額ですよね? なら、この機会に家を買ったほうが得ですよ!」というのを聞いたことはありませんか?
実はこれ、ただの問題のすり替えで、得でもなんでもありません。「価格」だけみて優劣を決めるのはナンセンスです。
そもそも、「賃貸と持ち家、どちらかが得だ」という明確な答えがあるなら、経済学者アダム・スミスの「見えざる手」の例を引くまでもなく、一方はもう一方に淘汰されているはずです。淘汰されていないということは、価格(金額)以外の部分でなんらかの相違性があるはずです。
では、それは一体なんなのでしょうか?
実はこれは、「所有リスク」の問題です。
賃貸と持ち家、この2点の大きな違いは「不動産というリスク資産を所有しているか否か?」という点です。「そんなことは言われなくてもわかっている」と思われた方は、本当に理解されているのでしょうか?
以下の2点をよく考えてみてください。
(1)不動産とは「リスク資産」である
ここでの「リスク」とは、あくまで金融・投資業界での定義です。一口にリスクというと、みなさんは「危険な物」と考えるかもしれませんが、金融および投資業界では「リスク=資産価値に変動性(不確実性)があるもの」という定義づけを行っています。
例えば上記の不動産屋さんのセールストークで考えてみましょう。月々の支払い金額が7万円。当然、持ち家における建物の価格は老朽化等によって年々下がっていくでしょう。さらに、建物がある土地も所有している場合(建物だけの販売ということもあるので、必ずしも持ち家=土地を保有しているというわけではありません)は、資産評価価格は基準土地価格の変動にも左右されます。
それに対して賃貸の場合はどうでしょう?
決まった家賃さえ払っていれば、土地価格が暴落しようが、なんだろうが自分の「資産」には大した影響はありません。かりに家賃相場が上昇して大家さんが値上げ家賃改定を行ったとしても、気に入らないなら引っ越せばいいだけです。持ち家にくらべれば全然身軽なので、なんの問題もないです。
そう考えると月々に支払うのが7万円だろうがなんだろうがどうでもよいわけで、本質的な問題は、「今後、資産が価格変動にさらされるのか?」ということであると見えてきます。
もちろん、価格が下がる場合もあれば上がる場合もあるわけなので、一概にどちらが優れているとは言えませんよね。この観点から見れば、持ち家か賃貸かなんて正直好みの問題です。
(2)リスク資産購入コスト
これは、よく見落としがちで、かつ不動産屋さんのトークでいつも説明を飛ばされている部分です。
賃貸と持ち家の月々の支払金というのは、賃貸では家賃、持ち家ではローンです。
不動産屋さんの営業トークでは「持ち家でも賃貸でも支払金が変わらないんだから、家を買わなくちゃ」といったような論調でしたが、ここで少し考えてみてください。
「ローン金利分の支払額はどうなのか?」
1カ月7万円相当の家に住む家賃と、30年程度の金利支払い分を上乗せされた月間支払額は、単純比較できません。
実例で考えてみましょう。