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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

マイホーム取得競争過熱で「物件がない」…今買わないと2度と良い物件に出会えない懸念

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
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「GettyImages」より

 コロナ禍で世界が分断され、経済・社会の停滞感が強まり、わが国でも、2020年度第1四半期(20年4月~6月)の国内総生産(GDP)は、速報値で年率27.8%、確定値では同28.1%のマイナスという前代未聞の落込みとなっています。

 しかし、そんななかでも前編で触れたように、住宅だけは値上がりが続き、購入する人が絶えないのです。なぜなのでしょうか。

コロナ禍でも住宅市場は安定的に推移している

 2020年3月から4月にかけて、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が急速に広がったときには、マンションや一戸建ての売行きが激減、価格も暴落するのではないかと懸念されましたが、そんなことはありませんでした。

 たしかに、新築マンションは一時的に発売戸数が落込み、中古マンションも成約件数が激減しました。しかし、それは分譲会社や住宅メーカー、仲介会社などの営業自粛、モデルルームや住宅展示場の閉鎖などによるもので、緊急事態宣言解除後には急速に市場は回復してきました。

 首都圏の新築マンションの発売戸数はすぐにコロナ禍以前のレベルに戻り、平均価格もコロナ禍以前の6000万円台前半を維持しています。中古マンションもやはり成約件数が回復、成約価格はコロナ禍以前より高くなりつつあります。

コロナ禍でためらっていると機会を逸する?

 不動産会社の営業担当者からは、「コロナ禍以前よりも忙しい」「買いたいお客は多いのに物件が足りない」といった声も聞かれるほどです。ですから、コロナ禍で経済が失速、いずれは価格が下がり、購入チャンスがやってくるはずだから、それまで待ったほうがいいのではないか、といった考え方は通用しないのかもしれません。コロナ禍だからといって購入をためらっていると、このままどんどん価格が上がり、いっそう買いにくくなってしまいそうです。どこかで、思い切って決断しないと、一生マイホームが持てない可能性もあります。

 そう感じさせるほどの元気さの源はどこにあるでしょうか。

 コロナ禍で業績が悪化、経営に苦吟する業界、企業が多いなか、なぜ住宅業界だけがこんなに元気なのでしょうか――その理由をひもといてみると、やはりこれは一過性のものではなく、根深いものであることがわかります。

日本人の持家志向の根強さが背景にある

 コロナ禍でも住宅だけが売れているのには、いくつかの理由が挙げられますが、ベースには、日本人の持家志向の強さがあるのではないでしょうか。図表1は、国土交通省の調査から、住宅に関する所有意識に関する質問項目の結果をグラフ化したものです。

 全体的には、「土地・建物については、両方とも所有したい」が73.5%で、「建物を所有していれば、土地は借地でもかまわない」が7.0%となっています。土地建物、あるいは建物だけでも所有したいという持家派が8割を超えます。それに対して、「借家でもかまわない」とする人の割合は14.8%にとどまります。ほとんどの日本人は、自分が住む家は所有するのが望ましいと考えているわけです。

 このように持家志向が強い背景には、借家の家賃は払いっぱなしだが、持家はローンを支払い終われば資産になる、住宅の基本性能は賃貸より分譲住宅のほうが高い、持家ならリフォームや建替えが自由――などさまざまな要因が挙げられます。

 この持家志向の高さは全国共通の傾向ですが、都市圏別にみると特に名古屋圏での持家志向が強い点が目立っています。

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コロナで新たな住宅探しを行う人が増加

 そうした根っこにある持家志向の強さに加えて、コロナ禍で住宅に求められる条件が変わり、それにふさわしい住まいが必要になっているといった、ウィズコロナ時代ならではの事情もありそうです。

 リクルート住まいカンパニーでは、例年、『住宅購入・建築検討者調査』を実施していますが、20年にはコロナ禍のなかで、新型コロナウイルス感染症拡大が、住宅購入や建築を考えている人たちにどのような影響を与えているのかを追加で調査、コロナ禍以前に実施された19年12月の調査と比較検討できるようにしています。

 それによると、図表2にあるように、コロナ禍によって先行き不透明感が強まり、住宅購入や建築の検討を取りやめた、一時ストップしたとする人が36%いる半面、コロナ禍によってむしろ住宅購入・建築意欲が促進されたとする人も22%に達しています。

 たしかに、コロナ禍がマイナスに動いた面が強いのですが、それでも逆にコロナ禍だからこそ、新たなマイホームが必要と動き始めた人がいるということです。

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ウィズコロナにふさわしい住まいを求める

 というのも、コロナ禍で在宅勤務が奨励されるようになって、働く人たちの住まいへの考え方が、大きく変わってきたのです。

 まず、在宅勤務を前提にすれば、会社までの時間距離にさほどこだわらない住まい探しが可能になります。これまでは、できるだけ都心にある会社に近く、最寄り駅からの距離も短い物件が求められました。時間距離という制約のなかで、多くの会社員は、多少狭くてもより会社に近い住まいを選択することになります。その結果、好む、好まないにかかわらず、一戸建てより交通アクセスに恵まれた、マンションを選択せざるを得なかった人が多かったのではないでしょうか。

 しかし、在宅勤務が当たり前になれば、多少会社から離れていても、最寄り駅からの徒歩時間が長い物件でも問題がなくなります。

 さらに、在宅勤務するためには住まいにワークスペースが必要になり、フィットネスや買物、勉強など生活のさまざまなことを家庭内でしなければならず、従来より広めの住まいが求められます。

コロナ禍でマンションから一戸建てに切り替える人も

 実際、先の図表2を見ると、注文住宅、新築一戸建て、中古一戸建てといった一戸建てを検討している人たちにおいて、住宅購入・検討意欲が促進されたとする割合が高くなっています。

 その要因はさまざまです。たとえば、一戸建てマンションを比べると、ワークスペースやソーシャルディスタンスの確保など、面積の広い一戸建てのほうがコロナ対策をしやすく、隣近所との音のトラブルを考えても一戸建てのほうが安心です。

 ここにはありませんが、20歳代、30歳代の比較的若い世代ほど、マイホームとしての検討物件をマンションから一戸建てに切り替えたという人が多くなっています。この世代は子育て世帯が多いでしょうから、在宅時間が長くなると、子どもたちの声がどうしても気になります。そのため、マンションだと上下階、両隣に気をつかわなければなりませんが、一戸建てならそうでもありません。

 こうした事情から、マンション住まいから一戸建てへの住み替えを検討する人が増えるなど、ウィズコロナに対応した住まい探しに動き出した人たちが多いのです。

まだまだ住宅は「買い時」とする人が多数派

 以上のような点とは別に、住宅ローン金利や価格動向、税制の優遇制度などの面から、いまは「買い時」と考える人も少なくありません。

 住宅金融支援機構では、定期的に住宅ローンを利用してマイホームの取得を考えている人を対象にした実態調査を実施していますが、そのなかで現在の住宅購入環境への見方に関する質問があります。その結果が図表3です。「今(今後1年程度)は、住宅取得のチャンス(買い時)だと思うか」という質問に対して、「そう思う」は34.9%でした。「そうは思わない」の23.3%を大きく上回っています。

 調査は20年5月から6月にかけて実施されており、まさにコロナ禍真っ最中でしたが、それでもこれだけの人が「買い時」だと考えているのです。16年、17年、18年までの40%台ほどではありませんが、住宅取得を前向きにとらえている人が多いのです。

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「買い時」と思う理由のトップは低金利

 では、その「買い時」と思う理由は何かを聞いてみると、「住宅ローン金利が低水準だから」が69.8%でトップ、以下「税制のメリットが大きいから」が33.8%、「住宅価格が安くなったから」が31.5%で続いています。

 何より、住宅ローン金利の低さが大きく影響しています。20年9月現在、変動金利型なら、ネット銀行では0.3%台まで下がっていますし、全期間固定金利型の代表格であるフラット35も、金利引下げ制度を活用すれば1%前後で利用できます。16年の日本銀行によるゼロ金利政策の導入以降、住宅ローン金利は急速に下がり、その後は若干上がっているとはいっても、依然として超低金利水準にあるのは間違いありません。

 また、税制面をみても、住宅ローン減税は消費税引き上げ後に控除期間が10年間から13年間に拡充され、過去最大級の控除額になっています。こうした点を総合すると、コロナ禍とはいえ、積極的にマイホーム取得に動く人たちが多いのもうなずけるところです。

コロナ禍のピンチは、実はチャンスのとき?

 何も、無理してこの時期に買ったほうがいいということではありません。買える環境にあって、買いたい物件が見つかったときには、コロナ禍に負けずに思い切って決断する必要があるのではないかということです。

 逆に、せっかくいい物件があったのに、コロナ禍だからと見送ってしまうと、二度とそんな物件は出てこないかもしれません。それに、コロナ禍でも買えた人と買えなかった人との間には、5年後、10年後大きな格差が生まれる可能性があります。

 前回の原稿の冒頭で「ピンチはチャンス」と書きましたが、コロナ禍のピンチは、実はチャンスのときなのかれしれません。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド2021~22


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