あるアパート建設・販売会社は、国の基準である「劣化対策等級2」を取得しているため、「長期間にわたって大規模改修は不要」と宣伝している。しかし、それは梁や柱などの構造にかかわる部分が対象だ。
木造建築は想像以上に劣化が早い。10年を超えれば、内装、外装、塗装、防水などの工事が必要になる。その時期は建築物によって異なるが、いずれにしても「大規模改修の必要がない」というセールストークは悪質といっていい。仮にそのような宣伝文句を目にしたら、その時点で疑ってかかるべきだ。
赤字続きで利益なしの“負動産”になる可能性も
しかしながら、アパート建設・販売会社のパンフレットやDVDを取り寄せてみると、実によくできている。ノンバンク系の金融機関から資金の大半を借り入れて1億円を投資、ローン返済や管理手数料などの支払いをすれば、あとは何もしなくても月5万円ほど入ってくる……そんな不労所得は確かに魅力的だ。建築や不動産の知識がなければ、業者のセールストークを鵜呑みにする人も多いだろう。
たとえ1億円の資金を用意できなくても、公務員や一部上場企業の課長、中堅企業の部長クラスであれば、ノンバンク系は年利2%ほどで資金を貸し出すことが多い。だからこそ、アパート建設・販売会社のセミナーに副業や老後のために足を運ぶ会社員が少なくないのだ。
さらに、アパート建設・販売会社が選択する土地は、確かに悪くない場所を選んでいる。「住みたい街ランキング」などで上位にランクインするエリアを開発することが多いのだ。たとえば、上京する学生や会社員のなかには「安くても狭くてもいいから、このエリアに住みたい」という考えを持つ人も多く、そうした需要に応える施策といえる。
しかし、現実的な家賃の下落、空室率の増加、毎年貯めておくべき長期修繕費用の積み立てを考えれば、場合によっては最初から赤字で一度も利益を出さない“負動産”になる可能性もある。そして、家賃の下落によりローンを払えなくなり、最終的には破産することも十分にあり得るのだ。
それらの事情に鑑みると、アパート建設・販売会社のシナリオは楽観的すぎる。一方で、金融投資であれば慎重になるにもかかわらず、不動産投資になると積極的に借金を背負う人も少なくないという現実がある。
不動産について、今は土地代も建築費用も高くなっているというのが筆者の実感だ。本来は安いときに不動産を取得して、のちにビジネスを行うのがベストだが、今は高い。となれば、失敗するケースが増えてもおかしくはない。
手に負えなくなると、「土地と建物を売って借金返済にあてよう」と考えるが、1億円で購入した土地・建物が1億円で売れるはずがない。結局、その後は借金返済に追われる人生になるか、破産するはめになるかもしれない。