住宅修理“詐欺”被害が急増、業者の手口は?自己負担ゼロを強調、保険金請求代行
なぜ、人の不幸につけ込むのか――。
地震、台風、豪雨、雪害などの自然災害が発生すると、「保険金が使える」と言って勧誘する悪質な住宅修理業者とのトラブルが急増する。しかも被害に遭った人が、場合によっては詐欺の共犯者とみなされるケースもあるというから、そんなバカな話があっていいわけはない。
以下の表は、国民生活センターに寄せられたトラブルの件数だ。2020年度までの11年間に急増していることは一目瞭然だ。20年度(2021年5月20日登録分)は5,413件の相談が寄せられている。
今年も地震や雪害が多発し、昨年に引き続き、増加の勢いはさらに増している。前年度と比較しても2倍にもなっている。
トラブルに巻き込まれるのは高齢者だけではない。2010年から19年に寄せられた相談を年齢別に見ると、平均年齢67.1歳、70歳以上が約半数を占めるものの、40代以下でも全体の12%を占めている。
また、一昔前までは訪問勧誘が圧倒的だった手口も、近年では電話やインターネット、通信販売、チラシと広範囲に広がっている。さらに、新たな手法として、ポイントサイトが悪用され、「無料診断をすれば高額のポイントを付与する」というものもあり、ますます手口は巧妙化し、誰もが被害に遭う可能性を秘めている。
トラブルに悪用される保険が火災保険だ。私見ながら、被害に遭われる方は、火災保険の補償範囲を理解していなかったり、手続きの段取りを知らない、あるいは相談できる人が身近にいないのではないか、と考える。
火災保険は火事だけではなく、国内で発生した風災、水災、雪災、雹(ひょう)災、落雷などによる損害を補償する商品が主流である。建物と家財の両方または一方を補償の対象とすることができる。悪質業者が言う「保険金」とは、主に火災保険の建物に支払われる保険金だ。
火災保険の請求を受けた場合、損害保険会社は被害状況に応じて支払保険金を決定するが、いわゆる「経年劣化」は補償の対象外となる。被害が出た場合、まず加入している損害保険会社や代理店に連絡をする必要がある。損害保険会社は連絡を受けて、契約者に保険金の請求に必要な書類などを案内するとともに、被害状況の調査を行って保険金を支払う、という流れをとるのが一般的だ。被害状況の調査では損害保険会社の社員や鑑定人という専門家を派遣するケースもある。
火災保険では補償の対象外となる、いわゆる「経年劣化」を「ついでに他の損害と一緒に請求してしまおう」と考えても、損害保険会社が被害状況の調査を行う過程で、プロの鑑定人等に見抜かれてしまうことは、忘れずにいたい。キャリアとスキルを積んだ鑑定人や損害調査担当社員の“目”は誤魔化せない。
こうしたことを踏まえて、代表的な5つのトラブルを紹介したい。
(1)自己負担ゼロを強調
訪問してきた修理業者に、「火災保険に加入していれば、自己負担なしで住宅の修理ができる」と修理工事を持ちかけられ、点検、診断、見積もり等を行い、保険金を請求した。実際に保険会社に認められた保険金は請求金額を大きく下回り、自己負担が発生することになったばかりか、修理業者に修理の延期を申し出たところ、保険金の30%を違約金として請求された。
このように自然災害で被害に遭っても、保険金の支払いの対象になるかどうか、保険金はいくらになるのかを決定するのは、損害保険会社だ。修理会社から勧誘を受けたら、まずは損害保険会社か担当の代理店に連絡をすることだ。
(2)保険金請求代行
保険金請求代行とは、修理業者が請求手続き一式(修理の見積もりや保険金請求の書類作成および申請など)を代行するもので、通常は修理工事契約とセットで持ちかける。なかにはコンサルタントと称して保険金の請求代行だけのケースもある。
たとえば、勧誘を受けて修理工事と請求代行をセットで契約したものの、その後、別の業者に依頼したのでキャンセルしようとしたところ、コンサルティング料、申請サポート料、違約金等の各種手数料として、見積額の30%から50%を請求されたケースもある。なかには、修理代金を支払ったのに、説明を受けていなかった保険金請求代行の費用を追加請求される場合もある。
保険金の請求は、一般的に自筆署名が必要だ。請求にあたって、建築や保険に関する専門知識を求められることはなく、決して難しいことではない。申請に必要な書類や申請書の書き方がわからないときは、遠慮せずに、損害保険会社や代理店に確認したいもの。もちろん損害調査や問い合わせに費用はかからない。なお、保険金の請求にあたっては、通常「り災証明書」の提出は不要だ。
(3)強引な契約
修理を躊躇していると、「この状態では大変なことになる。保険金が使えるから、すぐに修理したほうがいい。契約書は後でもってくる」と不安をあおり、長時間粘られ、ついには根負けしたところで、強引に口約束を交わさせる。契約書も持ってこない。契約のあと心配になってキャンセルを申し出ると、修理費用の50%をキャンセル料として請求された。
こうした契約トラブルの相談窓口としては、全国共通の電話番号で「消費者ホットライン」(188:イヤヤ)がある。不安を感じたり、高額な請求をされた場合は、「消費者ホットライン」に問い合わせてみよう。
(4)嘘の理由で請求
住宅の老朽化による損傷や損害を受けていないのにわざと破損させ、自然災害による損害として保険金を請求するケースもある。嘘の理由による請求は、保険金詐欺となる恐れがある。何より問題なのは、業者から「自然災害にしておけば、保険金がもらえる。黙っていてほしい」と契約者が同意を求められて、その通りに同意してしまうことだ。
強引な手口に、しぶしぶ同意したとしても、法律的には保険金詐欺に加担したことになりかねない。あとで保険金詐欺が発覚し、実際に「詐欺の共犯」として警察から事情を聞かれた人もいる。強引に契約させられたことを警察に立証するのは大変だ。保険金の支払いを受けていると、当然、保険金も返還しないといけない。金額が大きければ、初犯でも実刑判決を受ける可能性も考えられる。きっぱりと断る勇気が必要だ。
このような不正請求を持ちかけられたら、「保険金不正請求ホットライン」(一般社団法人日本損害保険協会)専用フリーダイヤル0120-271-824に情報を提供していただきたい。
(5)クーリングオフができないと言われた
契約後すぐにキャンセルを申し入れたら、「クーリングオフができない契約」と言われた。
訪問販売や電話勧誘販売で契約をした場合、クーリングオフを行うことが可能なケースがある。「保険金が使える」と言って勧誘する住宅修理サービスについて不安に思った場合やトラブルになった場合には、早めに最寄りの消費生活センターなどに相談すること。
こうした話しを聞かされた上、被害者の心理をあおり立てるのが時効だ。火災保険の請求期限は保険法第九十五条で消滅時効は3年と決められている。被害に遭った人の中には「期限内に請求しないと保険金は支払われませんよ」と持ちかけられ、揺さぶりをかけられたと聞く。
日本損害保険協会広報室の西村氏は「住宅の修理やリフォームに関し、『保険金が使える』と言われ勧誘されたときは、修理サービスなどの契約前に、加入先の損害保険会社または代理店にご相談ください。また、自然災害にかかわらず、ご自宅の損害に気づいたときも、同様にお問い合わせください」と話す。
こうした注意情報は損保協会のホームページでも紹介しているので、ご覧いただきたい。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)