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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

節税対策した「つもりの」タワマン購入者を、これから襲うかもしれない「悲劇」

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
節税対策した「つもりの」タワマン購入者を、これから襲うかもしれない「悲劇」の画像1「Gettyimages」より

 地価が上がり続けている。すでに東京中央区銀座の地価は平成バブル時の価格を上回っている。都心部では既存建物の建て替えや新たな再開発の槌音が鳴り響き、日本は「大発展期」を迎えたかのような騒ぎである。アベノミクスが掲げた低金利政策は、平成バブルと同様に市場に大量のマネーを供給することに成功し、結果として不動産にマネーが集まり地価上昇を招き寄せた。

 だが、宴には必ず終わりがある。米国ではすでに今年数回にわたる利上げが予定されている。先進各国が利上げに踏み切ろうとしているなかで、日本だけが惰眠を貪ることはできない。今年は金利、株式、そして不動産が「反転」する年になりそうだ。

 今回のバブルが崩壊すると、膨らみきった不動産マーケットにおいて甚大な被害が予想されるのが、節税対策を施した(つもりだった)湾岸タワマンオーナーや郊外部のアパートオーナーである。

 いつの時代でも、無理な借入金を行うと最後は身ぐるみ剥がされるというのは、真鍋昌平の漫画『闇金ウシジマくん』でも繰り返し描かれている世界だ。借入金は予定通りに返済できているときには、自分の生活基盤が一段上がったかのような気持ちになる。

 だが、借入金はどんなに金利が低くとも、元本を返済しない限りは、返済の呪縛から逃れることはできない。そして元本を返済するだけの「稼ぎ」を確保するには、自らの事業が順調に稼げているかを常にチェックする必要があるということだ。

 私は長らく不動産の仕事にかかわってきて、相続を中心としたいわゆる「節税対策」の不動産投資の実態をつぶさに見てきたが、どうも多くの不動産オーナーが節税対策を行うことばかりに考えが集中して、借入金の返済について「深く考えていない」のではないかと思われるケースが多いことに驚いている。

無防備すぎる不動産オーナー

 一方でメディアを中心に、こうした節税対策をセールスする側がリスクに対する説明を十分に行わず、高齢者などの不動産オーナーが「騙される」ことを社会問題として大きく取り上げる傾向にある。もちろん、世の中には悪い業者も存在することは事実だ。特に不動産業界は、同業に携わる自分が言うのもなんであるが、魑魅魍魎が跋扈する世界でもある。

 しかし、たまたま訪ねてきたセールスマンの感じが良かったとか、とても人をだますようには見えなかったというだけの理由で、何千万円あるいは何億円もするようなアパート投資やマンション投資を行うのは、不動産オーナー側にも「事業」を行う上であまりに見識がなく、そして無防備すぎるようにもみえる。

 アパート建設は、たくさんの土地を所有するオーナーであれば、ほぼ必ず業者や銀行がやってきて有利な節税対策になるとのセールスを受けることが一度はあるはずだ。実際に更地で所有したままで相続が発生するよりも、アパート等の賃貸建物を借入金を活用して建設し、運用を行ったうえで相続を迎えるほうが、相続税ははるかに安くなるというのはその通りである。

 しかし、当たり前だが、そのストーリーはアパート事業というビジネスが順調であることが大前提だ。日本は少子高齢化が進行していることくらいは、誰でもが知っているはずだ。そして、自分が所有する土地の周辺に、アパートニーズがどの程度ありそうか、そのくらいはセールスマンの口上を聞くだけではなく、自分でよく考えて判断したいものである。

 自分のアパートを建設してから周囲のいたるところに同じようなアパートが建って驚いたなどという感想もよく聞くが、業者が自分だけに耳寄りなアパート投資の話をしているはずがない。エリア内の需給バランスと将来的なリスクくらいには目を配っておきたいところだ。

 トラブルになりやすいのが、サブリースだ。サブリースはアパート業者が一定期間アパートを借り上げて、賃料を保証してくれる仕組みである。だからアパート事業など何も知らなくとも安心と考えがちだ。たとえ空室が多くとも業者が保証してくれるからだ。

 しかし、アパート業者とて商売である。こうした契約にはいろいろな条件を付して、大きなリスクを会社としても取らないように工夫をしている。多くの場合は建物賃貸借契約期間とサブリース契約期間が異なることだ。賃貸借期間は30年であってもサブリースによる保証は10年間だけだったり、保証金額も5年で変更できるといったものもある。

サブリースの危険性

 また、サブリース期間満了時には、指定された業者によるリニューアル工事を行わなければサブリース契約を継続しない、といった条項も多くの契約内容に見ることができる。サブリースは業者にとっても大きなリスクなのだ。当然、そのリスクをどこかで穴埋めしなくては商売にはならないのである。

 こうした契約内容をよく理解せずに、金融機関から言われるままに多額の借入金を調達し、アパート経営を始めたつもり、になっている不動産オーナーが数多く存在する。

 さて、不動産バブル崩壊が現実となった場合、こうしたアパートオーナーたちはどうなるだろうか。まず、マーケットでの金利水準が上昇することによって、アパートローンの金利が上昇するリスクがある。景気の悪化を受けてアパートの空室が増え、テナントの賃料が下落するリスクも顕在化するだろう。

 サブリースだから安心と思っても、業者側から保証賃料の引き下げを求められるリスクもある。「保証したじゃないか」と考えたいところだが、日本では借地借家法によって不動産の借主はサブリース業者であろうとも、法的には極めて有利に保護されているのである。

 つまり、一般のマーケット相場に比べて著しく高い賃料を支払っている場合には、借家料の減額が法的にも認められるのが日本の法律なのだ。当然だが、これまでの空室のリスクやマーケット賃料との乖離分を穴埋めしてきた業者側も大きな損失をすでに被っているケースが多いのがバブル崩壊である。お互いさまとはいえ、不動産を実際に所有しているのはオーナー側だ。事業上のリスクの顕在化に気づかされるのはまさにこのバブル崩壊時だというわけだ。

 賃料収入が下がり、金利は上がって返済できなくなる、こうしたアパートオーナーが続出することがバブル崩壊時には容易に予想される。最近ではアパートオーナーだけでなく、「かぼちゃの馬車」という女性専用のシェアハウス投資で多額の借入金を背負った上場企業社員まで出現した。

「バブル崩壊」が「一族崩壊」?

 同様に、湾岸のタワーマンションなどを相続対策で購入した富裕層にも大きなリスクが降りかかりそうだ。タワーマンションは、上層階と下層階で販売価格に大きな価格差がある。相続時の不動産評価額はこれまで、マンションの階数には関係なく、土地は路線価額、建物は固定資産税評価額を基準に算定されてきたので、高層階ほど時価と評価額の乖離が大きく、相続税の節税に効果が高いと喧伝されてきた。実際に湾岸エリアに限らず、多くのタワマンで高層階は外国人投資家と相続対策のために購入した個人富裕層による購入で占められてきた。

 確かに相続税の節税効果は高いのだが、バブルが崩壊して外国人投資家が「売り逃げ」を図るとマンション相場は下落に向かうことになる。ところが、相続対策で買った人たちは、相続が発生しない限り節税効果は享受できないので、相場が下がっていっても「売るに売れない」状態に陥る。

 問題なのはこうした層は、節税効果を高めるためにハイレバレッジ、つまり購入価格のほとんどを借入金で賄っていることだ。価格が借入金の元本以下に下がれば、借入金を返済できなくなる恐れが顕在化する。

 そしてこれらの借入金の多くは、購入者が高齢であることから相続人である子供や孫を連帯保証人にしている。おじいちゃんが亡くなって、確かに節税は享受できても、その後に残ったタワマンが売れない、賃貸に出しても思ったような賃料でテナントが入らないなどという事態を購入時にはあまり想定していない可能性が高いのだ。

 アパート投資もタワマン節税も根っこは同じだ。子供や孫に相続税の負担をかけまいという親心が、多額の借入金という「とんでもない置き土産」を残して天国にいってしまう、「バブル崩壊」が「一族崩壊」につながってしまう恐れがあるのだ。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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