相続財産4千万円、「生前贈与」活用で320万円も相続税が安く!
今回は相続税と贈与税について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。
亮子「やっぱり相続税対策の王道は生前贈与だよね」
啓子「突然どうしたのですか?」
亮子「2015年の相続税の改正で、相続税を納めなくてはならないケースが増えたから、改めて、その対策を整理していて」
啓子「相続税対策としていろいろな方法が考えられますけれど、生前贈与は王道といえると思います」
亮子「次世代に財産を渡せるなど、税金対策以外にもメリットがあるし」
啓子「何にでもメリット、デメリット、注意点がありますけれど、まずは相続税対策の基本として、贈与税の基本を知っていただきたいですね」
生前贈与とは
誰かが亡くなったとき、その方の財産は法律に定められた親族が相続することになります。この際、相続する財産が多ければ多いほど、たくさんの相続税を納付することになります。逆に財産が少なければ少ないほど相続税の額も減り、財産が一定額以下であれば相続税はかからない、という仕組みになっています。そうだとすれば、相続までに財産を減らすことが、効果的な相続税対策になります。つまり生きている間に、財産を減らすことができれば、相続税も少なくなるわけです。
もちろん、消費することで相続する財産を減らすこともできます。それもひとつの考えでしょう。しかし、少しでも残しつつ相続税を減らしたいと考えるのであれば、生きている間に子どもや親族にあげてしまう、という方法が考えられます。生きている間に誰かに財産を渡すことを生前贈与といいますが、贈与であれば財産そのものを減らすことなく相続税を軽減することが可能になるわけです。そのため、生前贈与は相続税対策の王道だといえるでしょう。相続税を納付する必要がありそうな場合には、生前贈与を検討してみることをお勧めします。
ただし、贈与の際にも贈与額に応じて税金が課せられます。もし、贈与に税金が課せられなければ、誰もが無税で贈与をし、相続税をゼロにできてしまい、相続税が有名無実化してしまいますからね。そのため、相続税と贈与税がトータルでどれくらいになるか、という視点が大切になります。
そもそも相続税はどれくらいかかるのか?
相続税は、一定額を超える財産を相続する場合に課せられることになります。一定額とは、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出することができ、これを基礎控除といいます。相続する財産が基礎控除の金額の範囲内であれば、相続税がかからず、申告も必要ありません。計算式のなかにある法定相続人とは財産を受け取る権利を持っている人で、法律により定められています。詳細な説明は省きますが、たとえば亡くなった方の配偶者や子どもなどが該当します。例として、夫婦と子ども1人の3人家庭で、夫が亡くなった場合、基礎控除は次のように計算します。
基礎控除 = 3,000万円+600万円×2人(妻+子ども)=4,200万円
この基礎控除4,200万円を超える財産を引き継ぐと相続税がかかります。地価が高い都市部に住んでいると、自宅と預貯金などの財産を合わせて4,200万円の基礎控除を超えてしまうこともあるでしょうから、特にお金持ちというほどでもない場合でも、相続税が課せられる可能性があるというわけです。
そして、相続税の税率は次のようになっています(1億円超は省略)。
「法定相続分に応ずる取得金額」とは、基礎控除を超えた額について、相続人が法律に定めた割合で相続したと仮定した場合の額です。たとえば、先の例で相続財産が8,200万円だった場合、基礎控除は4,200万円なので、
・8,200万円−4,200万円=4,000万円
に対して相続税が課せられます。妻と子供が法律に定められた分だけ相続する場合には、2,000万円ずつということになります。
・妻の分の相続税2,000万円×15%-50万円=250万円
・子の分の相続税2,000万円×15%-50万円=250万円
で、トータル500万円の相続税が課せられることになります。なお、実際にはこの500万円を相続した額に応じて配分し、基礎控除以外の各種控除により最終的に計算した額を納付することになります。上記の事例では、財産総額8,200万円に対し、500万円の税金がかかる可能性があるということ。しかも、相続税は基本的に現金一括納付とされています。税金を納めるための資金が手元にないと、最悪の場合、財産が差し押さえられてしまうこともあります。
贈与税ゼロ円で生前贈与
そこで、生前贈与です。生前贈与により相続財産が減少すれば、それに応じて相続税が減ることになります。ただし、前述の通り、贈与にも税金が課せられます。贈与に課せられる税金を贈与税といいます。効果的な相続税対策のためには、贈与税の仕組みを理解することが大切です。
贈与税も、相続税と同様、たくさん贈与すればするほど、多くの税金がかかる仕組みになっていますが、贈与税にも基礎控除の仕組みがあり、原則として、年間110万円までの贈与には税金が課せられません。もし、年間で110万円を超える贈与があった場合には、財産を受け取った人が贈与税を納付することになります。贈与税は次のように計算をします。
贈与税額 = (贈与を受けた財産 - 基礎控除110万円)× 税率 - 控除額
贈与税の計算期間の単位は1年間(1月1日~12月31日)です。つまり毎年110万円の枠があるということ。しかもその枠は、贈与を受けた人それぞれが持っています。たとえば、親が2人の子どもに110万円ずつ贈与すれば、贈与税はかからない、というわけです。ちなみに、110万円を超えた場合の税率は次の表のとおりです。一定の親族に贈与した場合の特例税率とそれ以外の方向けの一般税率の2種類があります。
左の「一般税率」は、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子(未成年者)への贈与の場合などに使います。右の「特例税率」は、祖父母や父母から20歳以上の子どもや孫への贈与の場合などに使います。2種類の適用税率は、基礎控除後の課税価格が300万円を超えた場合に変わります。一般税率は20%、特例税率は15%となりますので、特例税率が適用される場合は税金が少なくなるようになっています。特例税率のほうが、税率が優遇されているのです。なお、基礎控除後の課税価格とは、贈与された財産から基礎控除110万円を差し引いた金額です。
たとえば、親から子に年間150万円の現金を贈与されたら、贈与税は次のように計算をします。
贈与税額 4万円 =(贈与を受けた財産150万円 - 基礎控除110万円)× 税率10% - 控除額0円
なお、贈与税は所得税の確定申告と同じように、財産をもらった年の翌年の3月15日までに贈与税の申告と納税をすることになっています。贈与税の申告書の提出先は、贈与を受けた人の住所を管轄する税務署です。納付書と現金を持って金融機関や税務署窓口で納付することができます。
生前贈与をするといくら節税できる?
実際に生前贈与を利用するといくら相続税が減るのでしょうか。ここでは親に計画的に生前贈与をしてもらったAさんと、生前贈与をしてもらわなかったBさんを例に考えてみます。何も相続税対策をしなければ相続時に基礎控除後の相続財産が4,000万円、法定相続人は2人いることを前提とします。
支払う相続税に注目してみてください。相続税対策をしたAさんは180万円、相続税対策をしなかったBさんは500万円相続税を払うことになります。対策をすると320万円相続税を安くできることになります。このように生前贈与は相続税対策に効果的な方法です。
亮子「やっぱり生前贈与は相続税対策の王道だね」
啓子「はい」
亮子「でも、一方で、これが税務調査で問題になることも多いんだよね」
啓子「そうなのです。デメリットもありますし、気をつけてほしいこともあります」
亮子「そのポイントは、次回解説よろしくね!」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)