しかし、その一方で、価格が乱高下するなど、新たな決済通貨の枠組みを超え、「投機が蔓延する鉄火場と化しつつある」(市場関係者)との声も聞かれる。近い将来、バブルが崩壊し、ビットコインに投資する個人が痛い目に遭うのではないかとの懸念も消えない。
2009年に誕生したビットコインの発明者は、「中本哲史(ナカモト・サトシ)」と呼ばれる日本の数学者といわれるが真相は不明のまま。中本氏の論文を面白がったハッカーが設計したとも噂されている。64ケタからなる複雑なIDを駆使したビットコインは、偽造が困難といわれ、特定の国の通貨としての信用はないものの、偽造が難しいことが信用の裏付けで、国境を意識せずに自由に売買ができ、ネット通販の決済や送金に使えるのが特徴だ。
また、送金手数料がなく、ドルや円との交換もでき、売買手数料も一回当たり0.6%とリアルマネーに比べ格安に設定されている。ビットコインの普及を目指す団体「ビットコイン・ファウンデーション」も設立されており、ビットコインを使った決済システムを立ち上げようという企業が世界各国で広がっている。
その中心地は、ほかでもない日本の東京・渋谷にある「TIBANNE(ティバン)」。ここでビットコイン取引サイト「Mt.Gox(マウントゴックス)」が運営されており、世界の取引シェアの6~7割を占める。ビットコインは日本生まれ、日本育ちの通貨なのだ。
しかし、ビットコインは中央銀行の決済システムから自由である分、IDが破られるなど信用の根幹が崩れた場合、責任主体がないだけに混乱を収拾する術がない危うさがある。また、監視がないことから麻薬資金などのマネーロンダリング(資金洗浄)に使われる可能性も高いと指摘される。
ビットコインはキプロスの預金封鎖を機に、急速に取引量が膨らんだ。国家の信用が失われる中、無国籍通貨としてのビットコインの需要が急増したためだが、需要急増から価格が急騰したことで投機対象にもなっている。欧州中央銀行や米内国歳入庁などはビットコインに警鐘を鳴らしており、マネーロンダリングに絡む摘発など規制強化の動きも見られる。
●乱降下する価格
そのビットコインの価格は13年に入り高騰し始め、年初から約80倍に価格が跳ね上がった、とくに10月中旬に中国のネット大手の「百度」がビットコイン決済に対応すると発表して以降、中国のネット利用者によるビットコインへの投資は過熱し、わずか2カ月で価格は10倍に。世界で流通するビットコインの3分の1以上が中国経由で売買され始めた。
しかし、その矢先に、中国人民銀行が「ビットコインは通貨として市場で流通、使用することはできない」と通知して、一挙に価格が暴落。12月上旬には3日間で半値に落ち込んだ。市場規模が小さいだけに価格が乱高下しやすい土壌は変わらない。
それでも米国では、バーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長が議会公聴会で「(ビットコインは)期待がもてる」と文面で指摘したこともあり、ウォール街のファンドマネージャーの間では、ビットコインをマネーゲーム感覚で売買して小金を稼いでいる者も少なくない。
そのウォール街では、ビットコインを対象にしたETF(上場投資信託)や投資ファンドを組成する動きも見られる。これらが販売され、一般の個人層がビットコイン市場に参入した時、そこがバブルのピークとなる可能性が高い。国家(中央銀行)の裏付けがないビットコインの真価が問われるのもその時であろう。新たな決済通貨として定着するのかどうかは依然、未知数だ。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)