消費再増税延期、景気上振れ・財政再建加速・株高の可能性高まる 想定リスクを検証
安倍政権が来年10月に予定されていた8%から10%への消費再増税見送りの是非を国民に問うために、早期に衆議院の解散総選挙に打って出るとの観測が高まっている。これを受けて、すでに株高・円安という反応が出ていることからすれば、市場は今のところ前向きな評価をしているといえよう。長期的にみても、これをきっかけに今後の政権基盤が強化され政策遂行が加速すれば、円安・株高・金利上昇要因になるとみられている。
実体経済への影響としても、当面の景気上振れが想定できる。なぜなら、2015年10月からの家計所得の実質的な目減りがなくなることに加え、伝えられているとおり再増税時期が17年4月に延期されれば、その前の駆け込み需要が想定される。さらに消費再増税に対する景気対策が必要なくなることから、無駄な公共投資が抑制される可能性も期待される。
一方、現在開会中の臨時国会での法案審議に影響が出るとの見方もある。また、来年の通常国家でも景気対策の審議と消費再増税時期の法案審議が優先されるため、成長戦略の推進ペースが落ちると懸念する向きもある。しかし、再増税見送りに加え、円安・株高・原油安の恩恵により景気を好転に持ち込むことができれば、アベノミクスが政治的な求心力を高め、むしろ成長戦略の推進ペースが加速する可能性も期待できる。
さらに、15年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支:年収に相当する税収から利払い費以外の政府支出を除いたもの/以下、PB)赤字をGDP比で10年度から半減させる目標が達成できないとする向きもある。しかし、仮に消費税率を予定通り引き上げても、それに伴う税収1.5兆円の増加を上回る景気対策を15年度に行えば、むしろ同年度のPBは悪化する。一方、公表されている今年9月までの税収を平均進捗率で延長すると、今年度の税収は2兆円の上振れが期待される。このため、今年度の補正予算の規模を一定の範囲内に抑えれば、来年度のPB赤字半減はむしろ達成可能性が高まる公算となる。
●将来的な金利上昇リスクも
金利上昇懸念についても、現在日本銀行が大量の国債購入を行っていることからすれば、実際に長期金利が急上昇するリスクは低いだろう。ただ、見送られた消費再増税をその後も実施することができず、20年度のPB赤字解消目標が達成できない、もしくは政府が社会保障を中心とした歳出削減に本腰を入れずに将来日銀が量的・質的金融緩和の出口に向かうことになれば、将来的に国債格下げを通じた金利上昇のリスクが高まることが懸念される。事実、10月末に打ち出された日銀のサプライズ追加緩和においても、黒田東彦総裁は予定通り消費再増税が行われることが前提だと発言している。今後の政府と日銀の協調関係に変化が生じる可能性があることには注意が必要だ。