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江川紹子の「事件ウオッチ」第210回

江川紹子が斬る【杉田水脈氏政務官起用】内閣改造人事で露呈した岸田首相の呆れた人権感覚

文=江川紹子/ジャーナリスト
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画像は「衆議院議員 杉田水脈公式webサイト」より
度重なる差別発言にもかかわらず、岸田首相が総務政務官に起用した自民党・杉田水脈氏。旧統一教会問題とも相まって、人事への批判が高まり、内閣への支持率は急落している。(画像は「衆議院議員 杉田水脈公式webサイト」より)

 政務三役の人事で、これほど驚き、呆れ、落胆したのは初めてかもしれない。“あの”杉田水脈・衆院議員の総務大臣政務官への就任である。

「男女平等は反道徳の妄想」「LGBTは生産性がない」……杉田水脈氏による数々の差別発言

 その名を目にしただけで、さまざまなトンデモ発言が蘇ってくる。

 たとえば2014年10月31日の衆院本会議で、彼女は「次世代の党」所属議員として女性活躍推進法案を批判し、こう述べた。

「日本は、男女の役割分担をきちんとした上で女性が大切にされ、世界で一番女性が輝いていた国です。女性が輝けなくなったのは、冷戦後、男女共同参画の名のもと、伝統や慣習を破壊するナンセンスな男女平等を目指してきたことに起因します。男女平等は、絶対に実現し得ない、反道徳の妄想です」(2014年10月31日)

 男女平等が許せない彼女は、日本が1985年に締結し、男女雇用均等法制定につながった、国連の「女子差別撤廃条約」にも攻撃の矛先を向ける。

「命にかかわるような女性差別があるような国とかにとってはこういう条約というのは本当に必要なものではないかと思うんですけれども、日本はそれと比べてどうですか。女性の差別は存在しますか。私は、女性差別というのは存在していないと思うんです。そのなかでこの女子差別撤廃条約というのを日本は結んでしまっています」(2014年10月15日内閣委員会)

 彼女の代名詞ともなった「LGBTは生産性がない」発言は、2015年頃から繰り返しなされた。

 2015年3月27日、自身のブログに「LGBT支援策が必要でない理由~私の考え」と題して、「生産性のあるものと無いものを同列に扱うには無理があります。これも差別ではなく区別です」と記載。「(基本的人権は認められている日本で)『女性の権利を』とか『LGBTの人たちの権利が』とかというのは、それぞれ、『「女性の特権』『LGBTの特権』を認めろ! という主張になります」という独自の説を展開して、支援は不要と述べた。

 そして同年7月にも、ネット番組のなかで「生産性がない同性愛の人たちに皆さんの税金を使って支援をする。どこにそういう大義名分があるんですか?」と発言した。

 2016年11月号の「新潮45」(新潮社)でも、彼女はブログやネット番組で述べた自説を展開。さらに同誌の2018年8月号(7月18日発売)への寄稿で「LGBTのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり生産性がないのです」と書いた。これが、同誌発売まもなく多くの人の目に触れ、批判の声があがった。結局同誌は、杉田氏を擁護するさらに差別的な文章を掲載した挙げ句に、休刊(廃刊)している。

 杉田氏のLGBTに関する発言は、海外メディアでも報じられ、全国各地で抗議のデモも起きた。杉田氏は、しばらく取材にも応じずにいたが、騒動が起きて3カ月後の10月24日になって、「党からも指導を受けた」としてぶら下がり会見に応じた。「生産性」という言葉について「不適切だった」と認め、「誤解とか論争を招いてしまったことは大変重く受け止めている。それによって不快に思われた方とか傷ついた方がいたことについては重く受け止めている」と述べた。しかし、一連の自説は撤回せず、謝罪もせず、質問の途中で会見を打ち切った。

真摯な謝罪・反省がないままの政務官起用……岸田政権の人権感覚は杉田氏と同じ?

 一連の言動に共通して感じるのは、多様性の否定、差別的な視線、攻撃的な物言いだ。その視線は、とりわけ女性や性的少数者に向けられ、性被害を受けた女性にも容赦なく攻撃的な言葉が繰り出される。

 性被害を訴えていた女性ジャーナリストを通して、日本の実情を描いた英BBCの番組のなかで、杉田氏は「女として落ち度があった」と被害者を非難。「男性の前でそれだけ(お酒を)飲んで、記憶をなくして」「社会に出てきて女性として働いているのであれば、嫌な人からも声をかけられるし、それをきっちり断るのもスキルのひとつ」と述べた。

 これに対し、女性ジャーナリストが訴訟の可能性に言及したところ、杉田氏はネットメディアの取材に、「一般論として、女性の男性との同室や飲酒に関する自己防衛の在り方について考えを述べた」と弁解。「私の表現の拙さゆえに、結果的にそう受け止められる発言をしたことは事実ですので、真摯に受け止めています」と述べたものの、謝罪はせず、番組は発言を短く編集されたために「真意が伝わらなかった」と弁解を重ねた。

 また、2020年9月に自民党の会合で政府側から性暴力被害者の相談事業に関する説明を受けた際には、「女性はいくらでもうそをつけますから」と被害者を蔑視する発言をした。これについて、杉田氏は当初、「そんなことは言っていない」と述べて断固否定。

 しかし、会議に出席した複数の関係者が記者の取材に発言があったことを認め、党内からも批判の声が出てきた。

 橋本聖子・女性活躍担当相は「性犯罪や性暴力などへの取り組みで、大変な力を注いで頑張っている職員などを、踏みにじるような発言ではなかったかと非常に残念に思う」と批判。そのうえで、「自民党として適切な措置をしていくべきではないか。声をあげることができない、困難な状況に陥っている方たちに対し、内閣府としては、全力で対応に努力していきたい」と述べた。

 さすがに杉田氏も否定しきれなくなったのだろう。自身のブログで、発言があったことを認め、「女性のみが嘘をつくかのような印象を与えご不快な思いをさせてしまった方にはお詫び申し上げます」と謝罪した。

 こうした対応にも、党内外から批判が出た。世耕弘成・自民党参院幹事長は「言語道断だ。ブログで謝ったという形もいかがなものか」と、口頭での説明を尽くすよう求め、「今回が最後だ。次にやったら参院として厳しく物を申し上げなければならない」と釘を刺した。

 問題発言を批判されても、自分自身で誠実に対応せず、安全地帯に身を潜め、身内からも批判が出ると、しぶしぶ「不適切」を認める。それでも、できる限り謝罪はせずに突っ張ろうとするのは、いわゆる“謝ったら死ぬ病”のせいだろうか。

 批判に向き合うことなく、真摯な反省もしない。度重なる問題発言騒動でも、おそらくなんの学びもしていないだろう。実際、政務官就任の記者会見で彼女は「私は過去に多様性を否定したこともなく、性的マイノリティーの方々を差別したこともございません」と居直った。そして、「私自身も岸田政権が目指す方向性となにひとつずれている部分はないと思っております」と胸を張った。

 このような杉田氏を政務官に抜擢した、岸田文雄首相の見識、人権感覚を疑う。これまで「人権侵害に対して厳格に対応することは重要」「深刻な人権侵害にしっかり声を上げていく」など、何度も人権重視を強調してきたのは、いったいなんだったのか。杉田氏の弁をそのまま受け取るならば、岸田政権の人権感覚というのは、杉田氏と同じ方向を向いている、ということになる。

杉田氏だけではない! 文部科学副大臣に就任した簗和生のトンデモ発言

 杉田氏は、2012年の総選挙で日本維新の会から出馬して初当選。その後「次世代の党」に移ったが、2014年の総選挙で落選。その後、右派の論客・桜井よしこ氏に引き立てられ、安倍晋三・元首相や萩生田光一・衆院議員などに気に入られて、2017年の総選挙では自民党の公認を得た。比例中国ブロックで名簿順位17位という当選間違いなしの破格の扱いを受けた。2021年の総選挙でも、やはり比例中国ブロック19位という高位で出馬し、当選している。LGBTに関する発言で批判が巻き起こった際には、当時首相だった安倍氏は「まだ若いですから」と、当時51歳だった杉田氏を擁護した。

 岸田氏とすれば、安倍氏のお気に入りだった杉田氏にポストを与えて右派勢力に迎合すれば、自らの政権が安定すると考えているのかもしれない。自身の政権維持に汲々とするあまり、杉田氏の言動に批判的な、自民党員を含むまっとうな人権感覚の人たちの声は聞こえなくなっているのではないか。

 LGBTに関しては、今回の人事で文部科学副大臣に就任した簗和生氏も、LGBTに対する理解を増進する法案を議論した自由民主党の会合で、「生物学的に自然に備わっている『種の保存』に抗ってやっている感じだ」などと発言したことが問題になっている。

 岸田氏は、この両人事の意図を、きちんと説明すべきだし、メディアはしっかり説明を求めてもらいたい。

 私がもうひとつ落胆したのは、メディアの感覚の鈍さだ。副大臣と政務官の人事は、8月12日午後の官房長官会見で発表されている。その動画を見たが、この政務官人事の意図について質問する記者はいなかった。誰も違和感を覚えなかったのだろうか。私が購読している新聞各紙の翌朝紙面には、副大臣・政務官の名簿が掲載されただけで、杉田氏起用についての言及はなかった。この問題に関する記事やコラム、社説が掲載されるのは、数日経ってからだ。

 確かに、今回の人事では旧統一教会との関連に最も関心が集まっている。ただ、そこだけチェックすればいい、というものではないだろう。記者には、もっと人権問題に敏感になってほしいと思う。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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