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林晋哉「目からウロコの歯の話」

歯列矯正やマウスピース矯正で「噛み合わせ」がメチャクチャ…物が噛めなくなる事例多発

文=林晋哉/歯科医師

歯列矯正やマウスピース矯正で「噛み合わせ」がメチャクチャ…物が噛めなくなる事例多発の画像1

マウスピース矯正の危険

 冒頭で紹介した患者さんが行っていたのは、「マウスピース矯正」です。インターネットで検索すると、最近はやっているようで、実に多くのマウスピース矯正を行っている歯科医院が出てきます。左の写真は、この患者さんが実際に使っていたマウスピースです(画像内の白い線は、番号を消すための加工)。これを上下の歯にはめ込み、食事の時以外は入れておくように指導されます。そして、このようなマウスピースを歯列の変化に応じて何個もつくり替え、年単位の時間をかけて歯を動かし、歯並びをつくっていきます。

 しかし、このマウスピースを調べてみると、噛む面に調整した跡が一切ありません。つまり、単に歯並びを変えた歯列模型に押し当てて吸引してつくったマウスピースを、上下に四六時中入れておくのです。その結果は、どうなるでしょうか。

歯列矯正やマウスピース矯正で「噛み合わせ」がメチャクチャ…物が噛めなくなる事例多発の画像2

 この2枚の写真は、約2年間マウスピース矯正を続け、施術終了に近い状態の患者さんの歯列模型です。噛み合わせの記録をとり、マウスピースを外した時の現在の噛み合わせを再現したものです。明らかに上下の歯が噛み合っておらず、目で見てもわかるほどの隙間が確認できます。

 これは、この患者さんだけの症状でしょうか。いいえ、それは違います。このように、マウスピースで歯列をギュッと小さく縮め、四六時中上下にマウスピースを入れ、自身の歯が触れない状況が維持されれば、当然、マウスピースを外した時に全体が平均的に噛み合う“良い噛み合わせ”がもたらされることはほとんどないでしょう。

 これは、歯並びを変えることだけを目的とし、咬合を無視した、あまりにも安易な手段であり、本来の歯科矯正の目的を外れたものといわざるを得ません。

 患者さんは、治療を続けても不具合を感じれば、新たな医師を求めます。この患者さんもマウスピース矯正を担当していた歯科医師に何度も「奥歯が当たらず物が噛めない」「顎をどこにやっていいかわからない」といった症状を伝えていますが、明確な説明がなく、今後の具体的な方針も聞くことができなかったため、いろいろと調べて筆者のもとに来院されました。

 治療後に来院されない患者さんは、調子が良い方ばかりではなく、問題があるからこそ来院されないこともあると歯科医は自覚するべきです。

 マウスピース矯正では、理屈的にも、良好な噛み合わせを得ることは難しいと思います。マウスピース矯正後は、噛み合わせ状態の追跡調査が実施されることを願います。
(文=林晋哉/歯科医師)

林晋哉/歯科医師

林晋哉/歯科医師

1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業(歯科医療研究センターを併設)、2014年千代田区平河町に診療所を移転。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践しています。著書は『いい歯医者 悪い歯医者』(講談社+α文庫)、『子どもの歯並びと噛み合わせはこうして育てる』(祥伝社)、『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』(新書判) 、『歯科医は今日も、やりたい放題』(三五館)、『入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」: -あなたもいつか歯を失う』(パブフル)など多数。

林歯科・歯科医療研究センター

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