レクサスの誇るSUV(スポーツ用多目的車)フラッグシップ「LX」が、公道に降り立った。すでにプロトタイプの試乗をクローズドのコースで体験しているものの、認可を取得した新型車両が街中を走るのは、これが初めてだ。景色が変わることでまた、レクサスらしい発見をすることになったのは収穫だった。
4代目となる新型LXは、実に14年ぶりのフルモデルチェンジとなる。基本的なコンセプトは、デビュー当時から変更はない。本格的なクロスカントリーモデルに最適である強固なラダーフレームをベースに、大排気量エンジンを搭載。豊かなサスペンションストロークと器用な4輪駆動力制御を武器に、道なき道を突き進む。
それもそのはず、骨格やパワーユニットは、基本的にトヨタ自動車「ランドクルーザー」と共通なのだ。荒地での踏破性において世界トップのランドクルーザーと兄弟関係にあるわけで、ラフロードでの性能が世界レベルにあることに疑いはないだろう。
だが、LXはランドクルーザーとは乗り味に決定的な違いがある。トヨタのプレミアムブランドであるレクサスらしく、しつらえは上質だ。
特に、乗り心地にこだわっている。トヨタブランドのランドクルーザーのエンブレムを付け替えただけのリバッジなどではまったくなく、装備や機能、もっとも基本的なボディの作り込み、サスペンションまで異なっているのだ。
ラダーフレームに固執したのは、圧倒的な悪路走破性を求めたからである。LXの仕向地は中東が5割、北米が2割、オーストラリアと日本がそれぞれ1割ほどと予想される。つまり、砂漠の中東では欠かせないオフロード性能を妥協するはずもなく、それでいてオイルマネーで潤う富裕層の期待に応えなければならない。軍用車のようなタフな踏破性と、リムジンのような優雅な乗り味が期待された結果だといえよう。
新型LXのキャッチフレーズを「世界中のどんな道でも楽に、上質に」としているのも、納得するのである。
そして、それは達成されている。新型に設定された「エグゼクティブ」は、航空機のビジネスクラス風のキャプテンシートが組み込まれ、最大48度もリクライニングする。そんなベッドに横たわるような姿勢で、がれ場や急勾配を登り下りするとは思えなかったが、そんな過酷な環境でも、ウトウトと居眠りをしたくなるほど乗り心地は快適だったのだ。
もちろん、ステアリングを握っても同様で、無骨な印象は少ない。モノコックほどしなやかではないが、トラックのそれをイメージすると完璧に裏切られる。新たに開発したガスバネ付きサスペンションやキャビンの取り付け方法などを細工した効果で、これまでの常識を覆すほどの快適性を備えているのだ。
本革シートや本杢目のしつらえなどが高級であることは、今さら語るほどでもないが、クルマとしての基本の走りそのものが上質なのである。
アルミ等軽量なマテリアルを多用することで、実に200kgの軽量化を果たしている。搭載するエンジンはV型8気筒5.7リッターからV型6気筒3.5リッターツインターボにスイッチ。最高出力は375psから415psに強化され、最大トルクも600Nmから650Nmに増強されている。力強さが格段に増したばかりか、ヘビーデューティーなクロスカントリーモデルが基本とはいえ、カーボンニュートラル対策も組み込まれている。
筆者のような庶民には、果たしてこれほど高級なレクサスLXで、枝木生い茂る道なき道に踏み込む勇気があるかといえば否だ。宝の持ち腐れになる可能性もある。いざとなったら、中東の砂漠からも帰還できるオフロード性能を備えているという潜在的な高性能が所有のよりどころになる。
もっといえば、たとえば中東のガスパイプ会社の幹部などは、現地の視察を快適なクルマでこなしたいと考えるらしく、その点でもLXは最適な一台になりつつある。なるほど、中東が5割の販売が見込まれるということは、そういうことなのである。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)