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橋本之克「カモられない!コミュニケーション」

「桃色」と「ピンク」は、こんなに違った!その言葉が不人気or流行の理由は「音」?

文=橋本之克/アサツーディ・ケイ シニアプランニングディレクター

良い広告とは何か?

「桃色」と「ピンク」は、こんなに違った!その言葉が不人気or流行の理由は「音」?の画像1「Thinkstock」より

 広告は、「良い広告」か「悪い広告」かという単純な分け方はできません。あらゆる広告には「役割」があります。

 例えば、新商品が出る直前に「期待感を募らせる」広告があります。このタイプなら、通常は商品の具体的な機能等を詳細に説明する必要はありません。面倒な説明をするよりも、消費者に「なんとなく、その商品はオモシロそうだ」と思ってもらえればよいのです。それこそが、この広告の役割です。

 別の例としては、プレゼントキャンペーンの告知広告があります。このタイプは「なんかトクしそう、応募したい」と思ってもらい「申し込み行動」をしてもらうことが広告の役割です。ちなみにこの場合も、「広告の役割」とは別に「マーケティング施策の目的」はあるわけなので、実際の購買を条件にするなどの仕組みを、広告制作とは別に準備しておく必要があります。

 つまり「役割を果たす広告が、良い広告である」と言ってよいのでしょう。広告は、発信する側の意図を達成できたかどうかで評価が決まります。発信者の意図通りに対象者が行動した、あるいは意識を変えたならば、その広告は良い広告なのです。

良いコミュニケーションとは?

 誰かに何かを伝えて、何か行動をしてもらったり、意識を変えてもらったりすること。この行為を、ここでは「コミュニケーション」と呼ぶことにします。

 広告は企業などの広告発信者からターゲットに向けたコミュニケーションです。対象となる相手は一般生活者だったり、その商品の購入者だったりします。いわゆる広告メディアを用いる場合、その相手とは“大勢の人々”になります。

 これ以外にも、さまざまなコミュニケーションがあります。人々が日常生活で関わる人に対して行うものも、立派なコミュニケーションです。例を挙げれば切りがありません。

・営業担当者として客に面談の機会をもらうためのコミュニケーション
・販売員として客に商品を手にとってもらうためのコミュニケーション
・今携わっている案件が大きなチャンスだと社内を説得するためのコミュニケーション
・好きな相手とデートを取り付けるためのコミュニケーション
・飲んで帰宅が遅くなった時、奥さんの機嫌を損ねないように理由を説明するためのコミュニケーション

 むしろ日常生活におけるコミュニケーションのほうが、商売のために行う広告などよりも、よほど複雑で高度かもしれません。

 そしてこれらのコミュニケーションにおいても、広告の場合と同様に良しあしがあるかもしれません。単なる雑談を別とすれば、多くのコミュニケーションには狙いや意図が含まれます。だとすれば、良い広告と同じように、発信者の意図に合う役割を果たすコミュニケーションは、良いコミュニケーションといえるでしょう。

大事なのは「言葉選び」

 すべてのコミュニケーションを成り立たせている最も重要な要素は、「言葉」です。対面による話し合いであれば態度や声色など、言葉以外にも重要な要素はあります。しかし、手紙やメール、新聞や雑誌の広告などの媒体経由のものを含めたすべてのコミュニケーションにおいては、言葉が最重要といえるでしょう。

 すべての言葉、一つひとつにはそれぞれの「意味」があります。だから、言いたい内容を正確に伝えるために、似た意味を持つ言葉の中で最適なものを選ぶのです。「会話」にまつわる言葉を挙げてみましょう。

「話す」「言う」「しゃべる」「伝える」「語る」……

 これらは似た意味ですが、ニュアンスは少しずつ異なります。従って、使い分けることは可能だし、効果的なコミュニケーションのためには、むしろ積極的に使い分けるべきでしょう。

 一生懸命に誰かの心に響くよう伝えるならば「語る」が合います。肩の力を抜いて親しく話を交わすならば「しゃべる」でよいでしょう。話し手が何か言葉を発しているだけならば「言う」でよいですし、何かをきちんと理解されるよう会話している場合は「伝える」を使うべきかもしれません。「話す」は、どんな場合にも万能です。このような使い分けは、コミュニケーションの効果を上げるためには非常に重要です。

 実は私たちは普通の会話においてある程度、このような使い分けをしているのではないでしょうか。言語感覚に優れた人ほど、その精度は高いかもしれません。もちろんプロとなればなおさらです。例えば小説家は、一つの文章を書くだけでも無数の言葉の組み合わせを頭に思い浮かべて、その中で一番ふさわしい言葉を選び綴っていくそうです。

言葉の表情を読む

 言葉は意味を伝えますが、それと同時にイメージを伝える働きもしています。意味は主に文字によって伝わりますが、イメージはほとんど音によって伝わります。意味とイメージが同時に伝わることにより、言葉に立体感と厚みが生まれ、印象深く伝わってゆくのです。

 言葉の意味に関する研究は言語関係の諸学をはじめ広い分野で行われてきましたが、言葉のイメージのほうは感性に関わる要素が多いため、これまでほとんど研究対象になっていませんでした。

 しかし、この研究に生涯をかけた人がいます。音相システム研究所所長、木通(きどおし)隆行氏です。木通氏は50年以上をかけて、言葉が伝えるイメージを分析し「音相理論」としてまとめたうえ、理論に基づいてあらゆる言葉のイメージを解析できるコンピューターソフトを完成しました。木通所長は言葉のイメージについて、次のように話します。

「新しい商品や流行語などを聞いた時、誰もが意味を考えますが、意味と同時に伝わってくるイメージのことはほとんど意識されていません。言葉が伝えるイメ―ジは、その語に対する好き嫌いや良しあしを決めるうえで大きな働きをしています。従って言葉の音の構造を見ることで、その語が伝えようとしている『心』の部分がイメージできるはずですし、そういう感性を鍛えることでコミュニケーション能力が高まるのではないかと考えました。
意味とイメージの関係を、『桃色』と『ピンク』という言葉の比較で考えてみます。これらは同じ意味の言葉ですが、伝わってくるイメージは違います。『桃色』は落ち着いた温かさを伝え、『ピンク』は明るさ、愛らしさ、モダンさを伝えてきます。そのため、つややかな赤ちゃんの頬をいうには『ピンク』のほうがよく、お母さんの頬は『桃色』というほうが、実態にふさわしい印象深い言葉となるのです」

 木通氏が音相理論の構築を決めた時、このような思いが際限なく広がっていったといいます。

音相はどんな方法で言葉をとらえたか

 木通氏は、言葉の意味とイメージの関係をとらえる方法について、次のように説明します。

「日本語は五十音(アイウエオ)や、濁音、半濁音、拗音(キャ、ピャなど)、促音、撥音(ン)、長音など130余の「拍」(音節)でできていますが、すべての拍をs、k、m、h、tなどの子音と、a、i、u、e、oの母音の音素に分け、さらにそれらを表情をつくる音の単位、破裂音、摩擦音、鼻音、有声音、無声音などの音相基に分けたうえ、音相基同士の響き合いがつくる表情を公式化して表情語や情緒語をとらえました。また、言葉がつくる表情を『清らか、鋭さ、高級、優雅、明るさ』など40の平易な言葉で記号化したうえ、それぞれの音の強さと明るさを数値によって示します。この方法を用いることで、語から伝わるイメージを客観化でき、特殊なイメ―ジを表現するにはどんな音を使えばよいかもわかりました」

 さらに木通氏は、音がつくるイメージについてこう話します。

「表情を作る音相基の1つに『イ音』があります。イ行の音は強さ、鋭さ、すっきり感、明るさなどの表情を伝える音ですが、使いすぎると『冷たさ、厳しさ、異常さ』などをつくるのです。1987年に国鉄が民営化されて『JR』になった時、『E電』という言葉が生まれました。E電とは東京圏などを走る国電を民間風に呼び変えた新語で、大々的に宣伝されましたが、当時の人々の評判がきわめて悪く、JRは早々に使用をやめてしまいました。

 音相理論でこの語の音を分析しますと、不評の原因がわかるのです。この語は『イ音を多用』しているばかりか、『いいでん』の4音がうっとうしさや暗さをつくる有声音のため、『異常な強さと重さを持った音』であることがわかりました。意味がどんなに優れていても、音が伝えるイメージとの間に不釣り合いを感じると、人々の評価は得られません。言葉の音を分析すると、人々に愛される言葉かどうか、またどのような働きをする言葉かがわかるのです」

 音相理論は奥が深く、わずかなスペースですべて紹介することはできませんが、コミュニケーション力をアップする上では、避けて通れないものだといえます。
(文=橋本之克/アサツーディ・ケイ シニアプランニングディレクター)

橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー

橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー

日本総合研究所を経てアサツーディ・ケイ入社。消費財から金融・不動産・環境エネルギーまで幅広く、マーケティング調査や戦略プランニングを行う。主な著作は『9割の人間は行動経済学のカモである』(経済界)

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