現代は良くも悪くも“顔”の時代なのかもしれない。
インターネット上にも、SNS上にも、相変わらずテレビや雑誌にも人間の顔があふれていて、人々は顔を求めている。
顔出しをしていないインフルエンサーや有名人の名前で検索をかけると、「顔」「素顔」などのサジェスチョンが出てくる。また、政治家やスポーツ選手、作家にも「美人」「イケメン」といった枕詞が着いていることも多い。
その一方で、「ブス」や「ブサイク」といった心無い言葉が飛び交うシーンも頻繁に見られる。そして、いくらインターネットやテレビ・雑誌といったメディアを間に挟んでいるとはいえ、そういった言葉が向けられている本人たちは、しっかりとそのメッセージを受け取っている。
26歳で作家デビューし、これまで5回芥川賞候補になった作家・山崎ナオコーラさんも、自分に向けられた「ブス」という言葉と長く対峙してきた一人。そんな山崎さんによる「ブス」という言葉をめぐる最新エッセイが『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社刊)だ。
デビュー後急に「ブス」と言われるように
山崎さんが「ブス」と言われるようになったのは、作家デビュー後から。
デビュー前は、自分の容姿が世間から「良い」とされていないことは分かっていたものの、容姿が悪いという理由で生きづらさを感じることはなかったし、自分に対して悪意を持って「ブス」と言ってくる人もいなかったという。
しかし、デビュー後すぐにその時は訪れる。インターネットで自分の名前で検索をかけると、第二検索ワードで「ブス」と出てくるようになったのだ。
なぜ「ブス」という言葉がサジェストされるようになったのか。
山崎さんは作家デビュー後、インタビューを受けたり、トークイベントに出たりするようになったのだが、そうした場では堂々と振る舞うようにしていて、そこで「勘違いブス」と思われたのではないか、と分析する。
世間が「ブス」に対してぶつけているのは、「いなくなれ」「消えろ」というメッセージではない。「勘違いするな」「身の程をわきまえろ」「たとえ仕事で成功しても、ブスは社会の中央には絶対に立てない」というような、「ブス」を隅っこに追いやりたい気持ちをぶつけているのだ。
バッシングを浴びた当初はどのように受け止めて良いのか分からず、自信を減らしたこともあったという山崎さん。しかし、今は堂々と振る舞うことを心がけており、自信を持ち、「ブス」を理由に脇に寄ったり、隅っこに移動したりはしないと断言する。
そして、「自信を持たない自由はある」とした上で、自分自身は「 “ブスには自信を減らしてほしい”という考え方には与しない」と述べるのだ。
劣等感の放出ではない「ブス」論が詰まった一冊
アイドルの総選挙や新聞社の報道姿勢、女性の化粧しない自由など、さまざまなテーマを経て「ブス」という言葉について思索を巡らせた山崎さんは、「ブス」に代表される容姿差別は社会のゆがみだと結論づけ、その社会は変えられると述べる。
そもそも作家が作品ではなくルックスでバッシングを浴びるということ自体、不思議なように思えてくるが、容姿が人間の評価に大きな影響を与えるという風潮は、私たちが形作っている社会、文化から生まれてきたものでもある。
だからこそ、山崎さんの「必要なのは、社会を変えること」という一言が強く響く。
漫画家のはるな檸檬さんも「“ブスには自信を減らしてほしい”という考え方には与しない」という言葉に大いに賛同し、「希望の書」と絶賛する本書。自虐でもコンプレックスでも、そして劣等感の放出でもない「ブス」論は、「本で社会を変えたい」という山崎さんの強い願いから生まれた一冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。