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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

気分や日々使う言葉、仕事のパフォーマンスを大きく左右との研究結果

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント

 この結果をもたらしたのは、頭の良さを示す概念である教授と自分とを関連付けることで、学生たちは「自分は頭がよい」と感じ、難しい設問に対しても正しい答えを出すことができたのではないか、と考えられています。正答率の56%と43%の違いは非常に大きいといえます。テストであれば合格と不合格がはっきりと分かれるラインです。

 ここまでで、プライミング効果に関する3つの実験結果をお話ししました。老化をプライミングされると足取りが重くなる、礼儀正しさをプライミングされると辛抱強くなる、頭の良さをプライミングされるとクイズの結果がよくなるといったものです。

ポジティブワードを使う

 さて、私たち自身の仕事について目を向けてみましょう。プライミング効果を応用するならば、自分の能力を発揮するのを妨げるような言葉を使うことや、ネガティブワードを連想する環境に身を置くのは、意識的に避けるべきといえます。皆さん、毎日の行動を朝から夕方まで一つひとつ思い出してみてください。朝目覚めたらまだ疲れている、鏡を見たらしわが増えていて嫌になる、通勤電車は混んでいるし自動車通勤にも渋滞がある。このようなことが1~2時間も続いた後で仕事を始めても、良いパフォーマンスが出るとは思えません。

 その代わりに、朝起きたらまず窓を開けて新鮮な空気を吸い、空を見上げてみる。鏡を見たら歯の手入れをしたり、髪形を整えたりなどで、目覚めた時より見た目が良くなった自分を認識する、など着眼点を変えることが考えられます。どうしても眠いのであれば夜はもっと早く床に就くべきでしょう。通勤時は何かリラックスできる音楽を聴いたり、自分がポジティブな気持ちになれる番組を聞いたりすることで、通勤環境を改善できるかもしれません。

 また、職場の問題点ばかりに目を向けるのも、能力の発揮にマイナスに働くと私は思います。どのような状況でも問題は必ずあります。ある問題を解決すると、その新しい状況によって新しい問題が発生します。ですから、常に何か新しいものをつくり出すという目的を持った上で、「この目的を達成するにはここが足りない」というふうに着眼点を変えたほうがプラスになるはずです。

 つまり、ネガティブワードを使わず、ポジティブワードを使うようにするということです。身近な例ではスポーツ選手のコメントは前向きなものが多い印象がありますが、これはプライミング効果を取り入れた結果であると思います。また、おまじないのような言葉を繰り返す選手もいます。例えばレスリングの浜口京子選手を育てた元プロレスラーのアニマル浜口氏が、「気合いだー」と叫ぶシーンをテレビでときどき目にします。単なる受け狙いのパフォーマンスだと見る向きもあると思いますが、私は浜口選手が能力を最大限に発揮するのに貢献しているはずだと見ています。「気合いだ」と叫ぶ場合と叫ばない場合で結果がどう変わるかを、一人の人間で実験することはできないため、実証はできませんが、理屈上は正しいと思います。

 私たちが仕事のパフォーマンスを上げようと思ったら、気分が上がる、やる気が出る、自分はできるというイメージを持たせてくれるような言葉に、常に触れていられる環境をつくるとよいでしょう。

 ちなみに私は東京駅で新幹線に乗るとき、必ずある場所を通るようにしています。そこには、「東海道新幹線 この鉄道は日本国民の叡智と努力によって完成された」と刻まれたプレートが掲げられています。東海道新幹線の工事が始まったのは1959年、営業開始は1964年です。これをじっと眺めると、「よし、がんばろう」という気持ちが湧き起こってきます。これは私のやる気スイッチの一つです。

凡事徹底

 最後に、甲子園で優勝経験のある監督のお話をしましょう。

 この高校にはたくさんの人たちが取材や見学に訪れます。練習を見学すると、皆、口を揃えて「練習メニューは普通ですね」との感想を口にするそうです。実際に監督も、オーソドックスなメニューしかやらせていないと言います。しかし、掃除と挨拶は厳しく徹底しているそうです。練習中にミスしても怒って怒鳴ることもなく、生徒も笑顔で練習していますが、掃除が不十分だったり、挨拶がいい加減だったりすると、厳しく指導するそうです。監督はその理由をこう言います。

「足の遅い生徒が速く走ることはできません。しかし、速く走ろうと一生懸命やることはできます。試合はどれだけがんばっても負ける時は負けます。しかし、掃除と挨拶は、絶対に結果が出ます。このような一見多くの人が軽視している凡事を徹底することで、野球の結果につながりますし、長い目で見れば生徒の人生にも役に立つと信じてやっています」

 監督はいつも枕元に凡事徹底というタイトルの本を置いて、寝る前にパラパラとめくって読んでいるそうです。何度も何度も読んでいるため、内容は頭に入っているはずですが、それでもときどきハッと気づかされ、新しい発見をすることがあると言います。

 私たちの仕事のパフォーマンスは気分によって左右されます。常に自分の周りに、よい感情を呼び起こす言葉を置いておきたいものですね。

(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

山崎将志/ビジネスコンサルタント

山崎将志/ビジネスコンサルタント

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。

2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。


最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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