近年、「介護疲れ」によって身内を殺害したり、無理心中を図ったり、といったニュースを目にすることが多い。このような報道を目にすると、殺人はいけないことだとわかってはいても、老いた家族の介護を一手に引き受けてきた苦労もわかり、犯人に同情してしまうという人は少なくないのではないか。介護は私たちすべてにとって他人事ではなく、いつ自分が介護する立場になるかはわからない。だからこそ、今のうちに介護について、その実態を少しでも理解しておくべきだろう。
全国140カ所でデイサービス施設を運営している山下哲司氏の著書、『介護で会社を辞める前に読む本―介護はリハビリで9割変わる』(ダイヤモンド社/刊)の中にこんな数字がある。
・介護を理由に仕事を辞めてしまった「介護離職者」の数、年間約10万人
現在、国は企業に対して「対象家族1人につき、かつ要介護状態にいたる毎に、毎回通算93日間の介護休業を与えること」を義務づけている。が、結論からいえば、この制度は実態に合っていない。短すぎるのだ。
日本の企業社会で「親の介護があるので休みます」と上司に切りだせる人はそう多くない。本書には、働きながら介護をする「兼業介護者」は約300万人にのぼるという数字も出ているが、そういった人々の中の少なくない数が、仕事と介護の両立に限界を感じ、会社を辞めざるを得ないという状況に追い込まれているのだ。このような事態をどうにかして避ける方法はないのだろうか。
本書ではこの事態への対処法のひとつとして、「リハビリ介護」を挙げている。これは要介護者の「お世話をする」タイプの介護ではなく、介護のなかに積極的にリハビリを取り入れることで、要介護者が再び自立して日常生活を送れるようになることを目指す介護だ。
ここで言うリハビリとは、「座る」「立つ」「歩く」という基本動作を行うことを指す。ほんの少しでもこうしたリハビリを重ねることで、少しずつ筋肉が動くようになり、寝たきりになることを防ぐことができるというわけだ。
では、このようなリハビリ介護を受けるためには、どのような選択肢があるのだろう。大きく分けてふたつある。
1.通院・通所によりリハビリを受ける
2.介護保険が使える、リハビリに特化した施設に通う
1の場合、理学療法士や作業療法士などの専門家によるリハビリをマンツーマンで受けられるというメリットがある半面、医療報酬に上限があるために、月に13単位(1単位は20分)しかリハビリを受けることができないというデメリットがある。
2は、1で得られるようなメリットはないものの、提供されるメニューにほとんど制限がないため、自分に合った施設を見つけることができれば、かなり満足の高いサービスを受けることができる。
いずれの方法を利用するにせよ、ケアマネージャーとの付き合い方が肝になると本書は説く。介護保険の利用希望者は、要介護認定を受けたあと、具体的にどのようなサービスを受けるかについて、要介護者が選択した居宅介護支援事務所のケアマネージャーに相談することができる。