医学部医学科の志願者数は、2004年度の9.6万人から14年度には14.3万人に増加しており、順天堂大学の偏差値は1990年の55から68に上昇するなど、難易度も上がっている。なぜ今、医学部が人気なのだろうか?
11月に『医師・医学部のウラとオモテ 「悩めるドクター」が急増する理由』(朝日新聞出版)を上梓した医師専任キャリアコンサルタントの中村正志氏に、
・医学部人気の背景
・医師の待遇と現実
・最近の医師が抱える悩み
などについて、話を聞いた。
ワーク・ライフ・バランスを重視する若手医師
–なぜ今、医学部ひいては医師の人気が上昇しているのでしょうか?
中村正志氏(以下、中村) 背景には、閉塞感や「何が正解なのかわからない」という時代の状況があると思います。医師は、まだまだ高給を得られる職業です。若者の安定志向の高まりが、医学部志願者の増加にもつながっていると思います。また、医師が主人公の漫画やテレビドラマも多くつくられるようになり、医師に対する憧れが高まっているという事情もあります。
–そのような理由で医師を志すことを、どうお考えですか?
中村 きっかけは、なんでもいいと思います。大事なのは、たとえ後付けであっても、医師になった理由を自分の中でつくれるかどうかでしょう。最近の大学はキャリア教育に力を入れていますが、医学部の場合は卒業後に医師になるのが前提ということもあり、キャリア教育の半分ぐらいを女性医師の支援プログラムに充てています。
その分、男性も含めた根本的かつ横断的な職業観を醸成する取り組みが不足しています。昔は医学部低学年では比較的ゆっくりすることもできましたが、今の医学部は全国の医学部生が受験する全国共用試験があり、合格しないと実習に進むことができません。部活も医学部生限定のものが多く、他学部生と触れ合う機会があまりないようです。
その結果か、年々、「医師免許を取得したが、どの診療科に進めばいいかわからない」「自分が医師に向いているという自信が持てない」といった悩みが、私のもとに多く寄せられるようになりました。思わず「この段階で、“自分探し”に迷い込んでしまっているの?」と問い返したくなるような悩みばかりです。
–若手の医師の特徴は、どのようなものでしょうか?
中村 悪い意味で、ワーク・ライフ・バランスを重視する傾向にあります。特に大学病院などに勤務する医師は、肉体的にも精神的にも大変ハードで、職場によっては食事や睡眠もろくに取れない日が続きます。少人数でなんでも担当する当直勤務は、一人前の医師になるために重要な経験ではあるのですが、若手の医師からは「当直がない転職先を紹介してほしい」という相談も少なくありません。
医学部に6年間、専門を深めるための研修にさらに5年程度かかることを考えると、女性の場合は出産や育児などのタイミングと重なることもあり、悩みは深いです。
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