ノウハウがうまく共有された会社は何が違うのか
一方、会社以外では、人々の行動は大きく異なる。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)やメッセンジャーなどで、情報共有は熱心に行われる。会社にいるときとは正反対だ。
なぜ、プライベートでは情報共有するのだろうか。恐らくこういうことだ。人は見たいと思う情報しか見ないし、自分が承認されたり利益になる情報しか流さない。SNSは、それを叶えるための装置として機能しているがゆえに、積極的に利用され情報共有される。
つまり、会社で情報共有を促す場合、そういった人の性質を前提として入れ物が設計されていなければならない。
あるサービス業の会社は、社内のノウハウデータベースをつくるために単純なことをした。
1.各部署のエースに、特別ボーナスを支給してノウハウを入力してもらった。それなりに多くの時間を使ってもらうため、ボーナスの額も気前の良いものにした。
2.社員全員が閲覧できるようにし、「よく見られているページ」をランキングにした。関連するノウハウを表示させるようにした。また、FAQ方式でページを表示し、自分と同じ悩みにすぐアクセスできるようにした。
3.エースたちには「質問されたら、『データベースを見ろ』と社員に伝えること」という指示を出した。これはエースたちにも「自分たちの仕事が楽になる」と好評だった。
4.頃合いをみて、「誰でもコメントを書き込める」ように改良し、良いものは記事に反映させた。また、システムを通じて質問ができるようにし、そのやり取りを公開すると、さらにアクセス数が伸びた。
その後、かなりデータベースが活用されるようになったという。
この事例において、成功のポイントをまとめると、以下のようになる。
・最初にある程度の情報量を入れる
・すぐに役立ちそうな情報をランキングなどでわかりやすく提示する
・関連する情報を表示する
・カテゴリー分けを行い、悩みに対してアクセスしやすいようにする。
・信頼できる人から利用を勧められる
・自分も発信できる
・質問できる
経営者は、情報を入力するエースたちに対し、事前に「このデータベースがいかに有用で、自分たちのメリットとなるか」を一生懸命説いて回ったという。
情報の入れ物だけつくってもダメなのである。
(文=安達裕哉/経営・人事・ITコンサルタント)