「マップラバー」と「マップヘイター」という言葉を知っているだろうか。
知らない土地で目的地に向かうときに、必ず地図を広げる人が「マップラバー」、日差しから方位を認識したり、周囲との関係性をもとに自分の進むべき方向を判断したりするのが「マップヘイター」である。
■世界を鳥瞰的に捉える「マップラバー」
『ちっちゃな科学』(かこさとし、福岡伸一著、中央公論新社刊)は、90歳の人気絵本作家のかこさとし氏と生物学者の福岡伸一氏が、「真の賢さ」を考察し、好奇心が大きくなる読書と教育論を紹介している。
マップラバーは、この世界の成り立ちを鳥瞰的に捉え、それを整理し、端から端まで、最初から終わりまで、きちんと網羅し尽くしたいという切実な気持ちを持っている。一種のオタク性ともいえる。そして、福岡氏もマップラバーだ。
福岡氏は子どもの頃、昆虫少年であり、世界の成り立ちを知ることに強いこだわりをもっていたそうだ。川ならば、さかのぼって源流の湧きいづるところを見極めたい。そして、それがどのような過程を経て、姿を変えていき、最後にどうなるかということも。
この場合、すべてのプロセスは公平に眺められなければならない。そうして初めて本当の世界に近づけるのだ。マップラバーは、このような世界の描き方を好むという。
■細胞は究極のマップヘイター!?
昆虫少年の時代が過ぎると、福岡氏は生物学に興味を持つようになる。生物学とは「生命とは何か」を問う学問だ。そして、あることに気づくのである。
ある生命の全体を見ると、いかにも設計的にできているように見える。しかし、細胞のひとつひとつに着眼してみると、細胞の全体像なんてまったく知らない。地図を持ち、自分は体のこの辺にいる、と役割を自覚している細胞などないのだ、と。細胞は、前後左右上下の様子だけを知りながら、それでいて全体のひとつとしてそこにいる。細胞ひとつひとつは、究極のマップヘイターだったのだ。
福岡氏は、人生の大半をマップラバーとして過ごし、昆虫を追いかけ、地図を愛し、小説を読み、遺伝子を調べてきた。そして、生物学を研究した末に、世界はマップヘイターとしてあるのだと気がついたのだ。
このマップラバーとマップヘイターの傾向は読書にも表れるという。福岡氏がマップヘイターに変化すると、読みたい小説も変わってきたという。それまでは丁寧に張られた伏線を回収して解決に至る緻密な推理小説などを好んでいた。それが、構築的でない小説や行き先の見えないエッセイ、マップヘイター的なあり方を教えてくれる物語の良さがわかるようになったのだという。
本の好みの傾向から自分はマップラバーなのか、マップヘイターなのか、考えてみるのも面白いかもしれない。また、本書の中ではさまざまな本が登場し、巻末にもブックガイドがついているので、子どもの好奇心を育むためのヒントになるはずだ。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。