2015年の訪日外国人旅行者数は約1973万人で過去最高を記録し、「インバウンド消費」という言葉も流行した。
そんな彼らの楽しみの一つといえば「食べ物」。リクルートライフスタイル社の2014年の調査によれば、訪日観光客の約80%が日本食を旅行の目的の一つとしており、順に「ラーメン」「刺し身」「とんかつ」「巻き寿司、かっぱ寿司」が人気だという。
日本食は美味しいという声をよく聞く、実際のところはどうなのか。
■フランツ・フェルディナンド、新幹線で幕の内弁当を食す。
スコットランドの人気ロックバンド、Franz Ferdinand(フランツ・フェルディナンド)のボーカリストであるアレックス・カプラノスは食に対する造詣が深く、ワールドツアーで各地に飛ぶたびにその土地の食べ物を味わう。それはもちろん名物だけでなく、B級グルメにも挑戦する。
そんなアレックスの食に対するコダワリは『サウンド・バイツ』(白水社刊)という本にまとめられている。これは2005年9月から英国のThe Guardian紙で連載していたものを書籍化したもので、2008年に邦訳された。
アレックスのグルメの標的の中にはもちろん日本食も存在する。まず登場するのが、東京から名古屋に向かう新幹線の中で注文した「ベントウ・ボックス」だ。そう、幕の内弁当である。彼の目にはその箱がこのように映ったらしい。
=====(102~103ページより引用)
黒いプラスチックのベントウ・ボックスは、中身が仕切りで切り分けられている。わかったかぎりの中身を書き出しておこう。生姜漬けになっている二枚貝、未知の果物と野菜のスパイシーなピクルス、やわらかいチキンの肉団子、樽のような根菜、黒いキノコ、ひとつに巻いたオムレツ、ぱりぱりした魚の皮、噛みごたえがある魚肉ソーセージ、たぶん発酵させた何かのはらわた、米、塩辛い梅の実。ぼくは摩訶不思議な食べものを、静岡のグリーンティーで飲み下していった。
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何が何をあらわしているのか分からないものもあるが、おそらく「黒いキノコ」はシイタケのことで、「ぱりぱりした魚の皮」は鮭ではないか。「塩辛い梅の実」は梅干しだろう。
味については触れられていないが、吐き出してしまうことはなかったようだ。というのも、アレックスが唯一日本で受け付けられなかった食べ物が「ウニ」だったと告白しているのである。確かに日本人でもウニが苦手という人はたまに見かける。海外の観光客にウニを勧める際はなおさら注意が必要だ。
■日本では、食はエンターテインメントである。
「日本では、食はエンターテインメントであるという考えが重視されている」とアレックスはつづる。初めて来日した際に、レコード会社のスタッフに連れて行ってもらった「ニンジャ」という店はテーマパークそのもので、秘密扉から黒い衣装をまとった女の子から現れるわ、暗い通路が続くわ、跳ね橋がおりてくるわで、そのたびにアレックスたちは畏敬と賛同をあらわす適当な言葉をつぶやく。
私たち日本人が普段当たり前だと思って接しているものを、アレックスはひとつひとつ細分化して客観的に写実する。だからなのだろう、いろいろなものが滑稽に見える。
フランツ・フェルディナンドは2004年にデビュー・アルバム『フランツ・フェルディナンド』をリリースすると、「女の子でも踊れるロック」を武器に世界的な人気を得る。2006年2月には日本武道館公演を決行。フジロックフェスティバルには4回参加しており、日本でも海外バンドの中での人気はトップクラスだ。
本書は、音楽をやっている人間ならではの繊細さなり芸術性なりも味わうことができる。皆さんもご一緒にアレックスの飽くなき世界のB級グルメの旅に出かけてみようではないか。
(カナイモトキ/新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。