多くの人にとって、「自分の家を建てる」ということは一世一代の買い物です。
だからこそ、妥協をしたくない。未来を見据えて子供や孫の代まで住める家であってほしい。生活を豊かにするような家にしたい。そういった思いは募ります。
ただ、たくさんの機能を入れるほど予算は積み上がります。
妻と2人の子供を持つ中学校教諭の山田耕司さん(44歳)は、そろそろ家を建てようと家族で住宅展示場へ赴きました。モデルハウスをめぐりながら、自分たちの住む家について思いを張り巡らせます。
アイランド型のキッチン、防音機能のある子供部屋、薪ストーブ、タイル張りのお風呂……。しかし、ハウスメーカーから提出された見積もりは、予算2500万円に到底見合わない額に。
途方に暮れる山田さんでしたが、新築住宅を建てたばかりの友人・小出さんの話を聞いて驚きます。小出さんが建てたのは、おしゃれで理想的な家。薪ストーブまで。さぞかし予算もオーバーしたのだろうと思いきや、「納得のいく仕様が予算内でできた」と言うのです。
では、小出さんはなぜ納得のいく家を予算内で作ることができたのでしょうか?
それは、小出さんが設計事務所と契約し、設計図を引いてもらいながら、工事全体のマネジメントもしてもらう「CM分離発注方式」という方法を選択したからだと言うのです。
■元受けが入る一括発注方式は価格のブラックボックス化を呼びやすい
この山田さんと小出さんのやりとりは『理想の注文住宅を建てたい!: 価格の見える家づくりの教科書』(東洋経済新報社刊)の中で、マンガで掲載されています。
著者の本間貴史さんは、テレビ番組『大改造!!劇的ビフォーアフター』に「匠」として8回出演、現在では中国のリフォーム番組にも出演するなど人気の建築家。仙台と上海を拠点に活動をしています。
そんな本間さんが「CM分離発注方式」のメリットについて説明するのが本書です。
通常、住宅を建設する際には次の3つのやり方がオーソドックスです。
【1】ハウスメーカーに依頼する
【2】地元の工務店に依頼する
【3】建築家に設計を、工務店に工事を依頼する
この3つの共通点は、「元請け」と呼ばれる工事業者に一括でお金を支払うという方式であること。その元請け(ハウスメーカーや工務店)が、下請けの専門工事業者に工事を行わせています。
この場合、建て主にとっては窓口が一つになるので「お任せ」でラク、そして安心を得ることができます。しかし、その一方で「費用がブラックボックス化しやすい」という大きなデメリットがあるのです。
元請けはマージンを取ってから下請けに発注をかけるので、その分本来建設にかかる費用よりも高く見積もられ、「希望する機能がつけられない」という事態が起きてしまうこともあります。
本書によれば、営業費や人件費などは見積もりの中で「諸経費」として計上されていますが、「会社の儲け分じゃないか」と誤解を招くこともあり、材料費や工事費に上乗せされているそう。
一方、本間さんが本書で提案する「CM分離発注方式」は元請けを通さずに、それぞれの専門工事業者に建て主が依頼をします。ただ、建築の知識がほとんどない建て主が見積書や工事をチェックするのは難しい。そこで設計事務所が建て主に対して様々な支援をするというのがこの方式です。
コストマネジメントがしやすくなり、建築士と二人三脚で家づくりをしていくという意味では「自分で家を建てている」という実感がわきやすくなるのも利点です。
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本間さんは2001年よりこの「CM分離発注方式」に取り組み、2020年3月までに135件の建設工事を完成させた実績を持っています。
本書は、これから家を建てようと考えている人やリフォームが必要だと感じている人だけでなく、新居やリフォームについてまだそこまで必要性を感じていないけど、将来必要になるだろうと考えている人にとっても有用なアドバイスとなるはず。また医院や店舗・事務所やキリスト教会などの実績も多く、その用途は住宅に限りません。
本間さんは、建築現場を専門工事業者の「陽のあたる場所」にしたいと述べます。
もちろん、この発注方式は建築家にとっては大きな負担になるでしょう。それでも「納得したうえで業務を行いたい」という職人魂が強く感じられる一冊です。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。