ちょっと電車では行きにくいところに行く時、急いでいる時、頼りになるのがタクシー。ところで、今東京都を走っているタクシーとハイヤーの数がどれくらいだかわかるだろうか?
その数は約5万台。この台数からもわかるように、東京は個人・法人含めたタクシー事業者がひしめく「大激戦区」であり、生き残るには何かしらの強みが必要だ。
神子田健博氏が、東京都の「タクシー大手四社」の一つ、帝都自動車交通の社長に就任した時、磨いていくべき強みとして掲げたのは「安全性」だった。
もともと、帝都自動車交通は警視庁の指導の元で設立した会社のため「安全・安心」には強いこだわりがあり、実際にその面での評価も高かった。
ハーバード大学PMDを修了後、銀行マンとして実績を重ねていたがタクシー業界は全くの門外漢だった神子田氏は、その安全性の伝統をさらに推し進め「100%事故を防ぐ」という、輸送機関にとっての「究極」を目指し、そのための施策を次々と打ち出していった。
■「タイヤの接地面以外、ぶつかったら全部事故」厳格な事故基準のもと「事故0」を目指すタクシー会社
帝都自動車交通はかねてから事故減件運動を続けていたが、2012年にこの運動を見直し、「タイヤの接地面以外、ぶつかったらすべて事故」と事故基準を厳格化した。
この基準では、ドアミラーを少しこすってしまうのも、ホイールが壁に接触するのも事故扱い。もちろん、有責・無責にかかわらず、事故は全て報告しなければならず、1%でも自社に責任があるとされたら「有責事故」扱いになる。
数字上で「事故0」を目指すなら、自社の事故基準は甘く設定したほうがいいはずだが、それでは本質的な安全性の向上にはつながらない。自社にあえて厳しい事故基準を課すことで、全社的に安全への意識を高めているというわけだ。
■ドライバーの健康不安からくる事故を減らす試みとは
神子田氏は社長に就任するや否や、さまざまな施策を打っていった。
例えば、薬物検査を全乗務員に対して行なうなど、先進的な取り組みが印象的だ。
それだけではない。上記の厳しい事故基準の下で「事故0」を目指すのであれば、ドライバーをはじめとした従業員の健康管理が不可欠と考えた氏は、ドライバーの睡眠状態改善のために、睡眠時無呼吸症候群を検出できる「眠りSCAN」を導入、薬物検査も徹底し、ドライバーの健康状態に起因する事故をなくそうと試みている。
『タイヤ以外、何に触れても事故である。―――帝都自動車交通、“絶対安全神話”への挑戦』(ダイヤモンド社刊)には「安全至上主義」を掲げ、徹底した事故減件を目指す帝都自動車交通の取り組みが詳しく書かれている。
「安全で当たり前」と思われがちなタクシーだが、その安全の裏には微に入り細にわたる努力が隠れている。ヒューマンエラーはどの仕事でも起こりうることだが、それを限りなく0に近づけるための取り組みと考えると、他業種でも学べるところはあるのではないか。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。