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松崎久純「ビジネスパーソンの自己啓発」

社員の「返事の仕方」を徹底的に教育すべき理由…職場のパフォーマンスを大きく左右

文=松崎久純/グローバル人材育成専門家、サイドマン経営代表
社員の「返事の仕方」を徹底的に教育すべき理由…職場のパフォーマンスを大きく左右の画像1
「Getty Images」より

 ある程度の年齢の社会人になると、周囲から注意されることもなくなってきますが、言うまでもなく、日頃から「返事の仕方」に気をつけるのは大事なことです。

 私たちは返事の仕方によって、どういう人なのか判断されます。もしかすると私たちは、「頼りない」と思われていたり、「この人で大丈夫かな」と疑われるような返事をしながら、指摘されないままでいるかもしれません。ここで返事の仕方について考え、自覚を高めてみましょう。

「返事の仕方」から、どんな人材か見抜かれている

 筆者が30歳くらいの頃、転職して入社したメーカーでのことです。同じ事業部に「はい」ではなく、「“ほ”~い」と返事をする社員がいて、驚いたことがあります。大卒で入社して2年目くらいの男性社員でした。たとえば誰かから「これを少し急ぎで」といった依頼を受けると、「承知しました」あるいは「はい、何時までにでしょうか」と答えるのではなく、「えーっ」と驚いてみせます。

 それまで私が勤めていた職場には、そんな返事の仕方をすれば、咎められる風土がありましたし、どんな会社であろうと、社会人としてそんな返事をするのは、あまりに非常識的に思えましたから、こんな社員がいることを不思議に感じたものでした。

 その社員は返事だけでなく、たとえば「おはようございます」という挨拶も「おはようござい“も”~す」(「ま~す」でもなく「も~す」)と言ったりします。自分の親しい人に、こんな人と一緒に働いているのを見られるのは恥ずかしいと感じるような話し方をする人でした。

 翌年の春には新入社員が同じ事業部へ入ってきましたが、この社員がまた「しっかりした社会人」とは言いがたい話し方や返事をする人で、「はぁ」「ええ」という言い方さえも暗く、快活さや聡明さは感じることができませんでした。

 このような社員は、先輩社員たちから注意されることもあるのですが、周囲はまともな返事を期待しても仕方がないという雰囲気になっていたように思います。

 そうした返事しかできない社員が、バリバリよい仕事をするというのは想像しにくかったのですが、やはり彼らからは、できるだけよい仕事をしようという意思を感じることはありませんでした。会社に長時間いることはありますが、失礼ながら業務のスキルレベルは褒められたものではなく、それを高めようという志は持っていません。長期的に見て会社に貢献できる人材ではないと、他の事業部も含む多くの人が認識していたようです。

 そして多くの人が想像していた通り、数年後、彼らは自分たちの曖昧な返事の仕方と同じように、その後のキャリアについてはっきりした考えもないまま、転職していきました。

 筆者の私が随分ときついことを述べているように聞こえるかもしれませんが、これは「頼りない返事しかできない彼ら」から、(私だけではなく)多くの人が受けていた印象だったのです。

多くの人がモラルの高い職場を望んでいる

 それでは、彼らのような人たちの「返事の仕方」が改善されれば、彼らの仕事ぶりはよくなるのでしょうか。

 よい仕事をしたいと考え、周囲が感心する姿勢で業務に当たっている人材なら、返事の仕方くらいは、注意を促せば、容易に改善を期待できるでしょう。しかし彼らの場合は、返事の仕方が悪いだけでなく、仕事に取り組む姿勢についても褒める人はいなかったのですから、返事の仕方だけよくなっても、仕事ぶりは変らないと思えてしまいます。

 彼らに「返事くらいしっかりしろよ」と言っていた先輩社員も、見かねてそう述べていただけで、彼らに多くを期待していたとは思えません。

 それでも長年のあいだ社員教育にたずさわってきた経験から、私は、まずは返事の仕方から社会人としての心構えや振る舞い方を教育していくことが必要に思えています。

 私は研修講師としても、経営コンサルタントとしても、さまざまな組織に伺いますが、「どんな返事をする人」かは、人を見る際の大事なポイントになります。返事の仕方が悪ければ咎められるのが当然という風土の組織はもちろん存在しており、私が受け持つ新入社員研修などでも、「返事の仕方」を含む「受け答えの仕方」は、徹底的な指導を求められるのが普通といえます。

 逆にいえば、新入社員研修をはじめとする若手従業員の研修では、他の何がよくできていようと、まともな返事ができなければ、決してよい評価を与えてもらえるものではありません。研修では、発声の仕方から気をつけてもらうよう指導しますが、そうした「返事の仕方」や「受け答えの適切さ」を重視する風土ができると、仕事にたずさわる姿勢や社会人としての振る舞い方について、組織全体の意識が高まってくるのです。

 これは現場で指導していて感じることですが、新入社員を含む若い従業員の多くも、そうした常識のレベルを上げることや、その指導を受けることについては、非常に前向きで、返事の仕方の悪い同僚などについては、快く思っていない場合がほとんどなのです。

具体的には何に気をつけるべきか

 返事の仕方について、具体的にはどのような点に気をつければよいのでしょうか。筆者が研修で強調するポイントは次の通りです。これらは、若手の従業員だけでなく、すべての社会人におすすめしたいチェックポイントでもあります。

1) まずは、相手よりも大きな声で返事できているかどうか

 特に若手従業員や営業担当者向けの研修では、このポイントを強調します。浮いてしまってもいいので、ともかく大きな声で返事ができるようにします。その場に合わせた声の音量調整は、その後にできるようにすれば大丈夫です。

2) 言葉をはっきりと述べる

 十分に明るく、好感度も高くなるよう心掛けます。不明瞭な返事、暗い返事というのは好ましいものではありません。

3)丁寧な返事であること

 たとえば「いやっ」と述べるのが癖になっている人には、「いえ」「いいえ」と話せるようになってもらいます。

4)相手のことを気にかけているという姿勢を見せる

 返事をするときに意識すべき大事なポイントです。ここでは具体的な技術については、説明を割愛しますが、自分の話し方や姿勢にこうした気持ちを込めることが大切です。

 人の返事の仕方を聞いているだけで、その人が日頃から「きちんと受け答えのできる人」かどうか、判断できることがあるはずです。合わせて、その人が自分のことしか考えられない人なのか、もっと余裕があって「周囲のことまで気にかけている人」なのかどうかも、返事の仕方からわかるものなのです。

 こうしたことを意識して、私たちも自分の返事の仕方について、あらためて考察してみましょう。前出1)~4)のチェックポイントで考えれば、わかりやすいでしょう。私たちの「返事の仕方」は、常に他の人たちの「返事の仕方」と比較されています。もし改善できる点があれば、自分のことを誤解されないよう、早めに見直していきたいものです。

(文=松崎久純/グローバル人材育成専門家、サイドマン経営代表)

松崎久純/グローバル人材育成専門家

松崎久純/グローバル人材育成専門家

サイドマン経営代表

企業の海外赴任者や海外拠点の現地社員を対象にグローバル人材育成を行う専門家。サイドマン経営・代表。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科非常勤講師。著書に『好きになられる能力 ライカビリティ 成功するための真の要因』(光文社)、『英語で学ぶトヨタ生産方式 エッセンスとフレーズのすべて』(研究社)、『イラストで覚える生産現場の英語』(ジャパンタイムズ)など多数。

Twitter:@HardLifeEasy

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