毎年、夏になるとテレビでよく目にするのが『亭主元気で留守がいい』、『つまらん!』など、数々の名作・名フレーズを生み出してきた“金鳥”こと大日本除虫菊のCMだ。
もはやそれ自体が夏の風物詩、といってもいいくらい、日本のお茶の間に浸透している金鳥のCMは、どの作品も「金鳥っぽさ」としかいいようのない、独特の世界観がある。
変わり種CMで前年比7倍の売上を記録 最強の企業宣伝部誕生の瞬間
『金鳥の夏はいかにして日本の夏になったのか?――カッパと金の鶏の不思議な関係』(ダイヤモンド社刊)は、今も昔も、見るものに強烈なインパクトを与える金鳥CMの裏側を、同社宣伝部自らが明かした一冊。
金鳥がテレビCMの持つ威力に気付いたのは1966年、殺虫剤「キンチョール」のCMで、当時人気絶頂だったバンド「クレイジー・キャッツ」のメンバー、桜井センリさん(故人)を起用した時のことだった。
内容は、桜井さんが、キンチョールを「ルーチョンキ」と逆さから読むというシンプルなものだったが、メーカー自らが敢えて商品を逆さまに持ち、商品名を逆から読んだことが驚きと笑いを呼び、話題となった。
視聴者からは大きな反響があり、その年のキンチョールの売上は、前年比で実に7倍を記録したという。
金鳥宣伝部がテレビCMに一層注力することになる契機となった出来事だった。
「やらしいわ~」、「大問題ですよ!」 金鳥がCM界のタブーにも挑む理由
この「ルーチョンキ」以外にも、金鳥は強いインパクトを残すCMを多く世に送り出してきた。今年であれば、大河ドラマ『真田丸』に出演する長澤まさみさんなど、旬の俳優や女優を起用しながらもラグジュアリーな方向へは向かわず、どこか庶民的な風合いを保っている。
金鳥宣伝部によると、金鳥の商品がもつ特徴にその理由があるという。
蚊取り線香や殺虫剤など、金鳥の商品は安価で、生活に根付いた日用品がほとんだ。
こうした商品を宣伝するときに求められるのは、非日常なラグジュアリーさやスマートさではなく、「生活者である消費者が共感できる身近さやリアリティ」だという。だからこそ、テレビではタブーとされているような下ネタやクレームといった内容のCMであっても、金鳥宣伝部がそれを理由に「やらない」選択をすることはない。それが生活者のリアルであり、共感を呼べると直観した場合には、テレビ的にはNGであってもそのタブーに果敢に挑むのが日本でいちばんCMの力を知る企業宣伝部の姿勢なのだ。
一度目にすると、不思議と商品名が頭にこびりつく金鳥CMはどのように発想され、制作されていくのか。『金鳥の夏はいかにして日本の夏になったのか?――カッパと金の鶏の不思議な関係』はその過程や、歴代のヒットCM、さらに数々の受賞歴をもつ伝説のクリエーター集団・電通関西堀井組の知られざるエピソードや金鳥CM出演タレント6名のインタビューを収録。
ユニークなCMがどう発案され、どう作られるのか。企業広報に携わる人であれば学びは多いはず。もちろん、純粋に読み物としても楽しいのは言うまでもない。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。