電通の女性新入社員の過労自殺が世間の反響を呼んでいる。昨年12月25日に同社女子寮で投身自殺した高橋まつりさん(当時24歳)の1カ月間(同年10月9日~11月7日)の時間外労働は、過労死ラインの月間80時間を超える約105時間。三田労働基準監督署は今年9月30日、長時間の過重労働が自殺の原因だったとして労災認定した。
10月7日、高橋さんの母親の記者会見で経緯が明らかにされたが、自殺に至るまでの仕事の状況を高橋さん自身がSNSで発信していたメッセージも含めて、メディアで大きく報じられた。さらに10月14日以降、東京労働局や各府県の労働局が電通本社と支社3カ所、主要子会社5社に立ち入り調査(臨検)を実施。そのなかには、過去に大手企業4社を労働基準法違反で東京地検に書類送検した「過重労働撲滅特別対策班」(通称:かとく)も含まれている。
過労自殺の労災認定をきっかけに刑事事件を視野に入れた大がかりな臨検が行われるのは、極めて異例の事態といえる。厚生労働省が10月7日に発表した「過労死等防止対策白書」によれば、「勤務問題」を原因・動機のひとつとする自殺者は、年間で2159人(2015年)に上る。
今回臨検が行われた背景には、1991年に入社2年目の男性が過労自殺し、最高裁判決で初めて会社の安全配慮義務違反を認め、多額の損害賠償を支払った電通が再び自殺者を出したこと。もうひとつには、安倍晋三首相自ら議長を務める「働き方改革実現会議」の改革の目玉に、「長時間労働の是正」を掲げていることもある。菅義偉官房長官も記者会見で電通への臨検について、「結果を踏まえ、過重労働防止に厳しく対応する必要がある」と述べるなど、官邸や塩崎恭久厚生労働大臣の強い意向が働いたことは確かだ。
安倍政権が検討している長時間労働是正策の具体的な中身は時間外労働規制、つまり残業時間に上限を設けることだ。日本の労働基準法では、使用者は1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定めている。これを法定労働時間という。これ以上働かせると「使用者は懲役6カ月以下又は30万円以下の罰金」が科される規定がある。
しかし実態は労基法36条に基づく労使協定、いわゆる「36(サブロク)協定」を結べば、法定労働時間以上に働かせることができ、事実上無制限になっている。これに上限を設けることについては、長時間労働を強いられている人たちにとってはありがたいことだ。