「産業革命」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、18世紀から19世紀にかけてイギリスで起こった、蒸気機関の発明に伴うものだろう。
しかし、「革新的な技術の開発と、それに伴う新しい価値の創造」ということでいえば、産業革命はこれまでに三度起こり、今まさに四度目が起きようとしている。
二度目の革命は、化石燃料による内燃機関という技術がもたらしたモータライゼーションだ。いうまでもなく、日本はこれによって世界の「勝ち組」になった。
三度目は記憶に新しい、コンピュータとインターネットによる通信技術革命だ。ここで覇権を握ったのはアメリカであり、乗り遅れた日本の落日は、すでに多くのメディアで報じられている通りである。
そして今起きつつある四度目の産業革命は、「AI」「IoT」「ロボット」「3Dプリンター」によってもたらされている。この「第四次産業革命」で、日本が進むべき方向性と戦略をつづっているのが『日本流イノベーション――日本企業の特性を活かす成功方程式』(吉村慎吾著、ダイヤモンド社刊)である。
■自動運転は自動車メーカーのビジネスモデルを変える
では、「AI」「IoT」「ロボット」「3Dプリンター」といった汎用技術を、日本はどのように生かしていけばいいのだろうか。その一例として挙げられているのが、日本の自動車産業が進むべき道である。
AIを活用した自動運転技術は今後さらに発展していくはずだが、そうなると自動車産業は単なる「製造業」ではなく「移動サービス業」の要素を帯びてくる。というのも、自動運転が広く普及すればするほど、車を所有することの意味合いは希薄になるからだ。
こうなると起きるのは、「所有から利用へ」の流れである。具体的には、コンピューター管理によるカーシェアリングが主流となり、個人に車を販売して利益を出すのではなく、クライアントごとの移動距離によって従量課金するモデルへと、ビジネスモデルの変革が求められる。
車への所有欲をひたすらかき立てる現行の自動車メーカーのテレビCMを見ると、にわかには信じがたい未来だが、海外を見ると自動車産業の「移動サービス業」化はすでに始まっている。
2015年にフォードがカーシェアビジネスに参入。フォード車の購入者が、車を使わない時にフォードを通じてその車をカーシェアに出すことができるサービスを始めた。このサービスの利用者は、マイカーをカーシェアに出すことにより、その車の購入にかかる金銭的負担を軽減することができるのだ。
アメリカ西海岸で行われた調査によって、市場にカーシェア車両が1台投入されると、自家用車は15台減ることが明らかになっている。自動車メーカーが「製造業」であるうちは、カーシェアを伴う「移動サービス業」化は自分の首を絞める行為でしかない。
それでもフォードが「移動サービス業」へ参入したのは、「所有から利用へ」の流れが不可避なものだからである。他社に先を越される前に、「移動サービス業」としての地盤を固め、シェアを確保したいという狙いがあるのだ。
日本がこの流れに乗るとしたら、「少子高齢化」や「地方の過疎化」はむしろ追い風になるはずだ。先進国の多くが経験するこれらの問題が一足早く押し寄せている今の日本は、先進国がいずれ行き着く諸問題へ対処するためのノウハウをいちはやく手に入れるチャンスともいえるのである。