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「金融業界に明るい話題をもたらそう」日本初のインターネット専業銀行誕生秘話

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 どんな分野であれ、前例のない取り組みには困難がつきもの。

 だが、そうした困難に果敢に立ち向かっていく人がいて初めて、私たちの生活が便利になっていくのも事実だ。

 こうした前例のないことに挑戦しイノベーションを起こしていく潮流の一つとして、産業界で注目を集めているキーワードに、FinTech(情報通信技術を活用した金融サービス)というものがある。

FinTechの先がけとしてのネット銀行

 FinanceとTechnologyの造語であるFinTechは、PayPalの設立に端を発すると考えられており、現在ではシリコンバレーを中心に世界中でFinTechのスタートアップが生まれている。

 金融機関による従来のサービスと比べ、決済や振込みといったオペレーションをより簡単に、そして安価な手数料で提供するFinTech企業は、その便利さやユーザー負担の少なさが高く評価される一方で、既存の金融機関からディスラプター(破壊者)として恐れられる存在でもある。

 ユーザーにとっては、一見便利なことばかりであるようにもみえるFinTechのサービス。ところが実際は、見知らぬスタートアップに大切な資産を預けることに不安を感じるユーザーも少なくない。

 手数料が安く、さらに高い信用性をもつネット銀行は、今や当たり前の金融サービスとして一般消費者から認知されている。金融機関において何よりも求められる信頼の獲得に成功した、FinTech企業のめざすべき姿だといえるかもしれない。

 「銀行」と冠していることもあり、現在では個人情報や資産情報をネット銀行に提供することに何の抵抗も感じないユーザーは少なくないだろう。

 ところがまだFinTechという言葉が一般的ではなく、さらにインターネットすら黎明期であった2000年には、ネット銀行は現在のスタートアップ企業と同様の壁にぶつかり、信頼の獲得に躍起になっていた。

 ネット銀行が金融インフラとして認められ、FinTechの成功モデルとして大成した背景には、昼夜問わず奔走した12人のパイオニアたちの活躍があったのだ。

「金融危機の影響で閉塞感が漂う金融業界に明るい話題をもたらそう」――都市銀行頭取の思い

 現在、ソニー銀行、楽天銀行、じぶん銀行など、実店舗(支店)をもたずにインターネット上で銀行業務をおこなうネット銀行は、国内に6社存在する。このインターネット専業銀行設立の動きに先鞭をつけたのが、世紀末2000年の10月に開業したジャパンネット銀行である。

 1991年のバブル崩壊以来、銀行業界が金融危機で苦しむなか、ジャパンネット銀行の親銀行にあたるさくら銀行(現・三井住友銀行)も不良債権処理に追われていた。岡田明重頭取(当時)は、こうした閉塞状況に風穴をあけるべく、いくつかの新規事業を考案しはじめる。

 その一つが、「日本初のインターネット専業銀行を設立する」というものだった。折しも、首相官邸がインターネットに接続(1994年)したり、マイクロソフト社からWindows95が発売(1995年)されたりと、インターネットが台頭しはじめていた時期のことだ。

 そして1999年、さくら銀行は富士通との共同出資に漕ぎつけ、ジャパンネット銀行の設立を発表する。

「支店がなくても銀行は成り立つ」という発想の転換

 「日本初のインターネット専業銀行を設立」という決定以来、関係者が最も労力を割いたのは「支店をもたずに営業するための仕組みづくり」だった。

 一般的な銀行の場合、全国各地に支店がある。だが、ジャパンネット銀行の場合、社内で行なわれた侃々諤々の議論の末、「支店をもたない」という決断がなされる。

 カスタマーセンターやWeb上での説明を万全なものにすれば、顧客に迷惑をかけることはないだろうとの目算はあった。だが、これまで当たり前のように行なわれていた、店頭での受付、営業職員の外回りなどの対面業務が行なえなくなると、さまざまな不都合が生じる。

ネット銀行最大の課題「セキュリティ問題」はいかにして解決されたか

 当時、浮上した課題の主だったものを紹介しよう。

・災害時などインターネットが使えないときはどうするか
・暗証番号はハッキングされないか
・本人確認は正しく行なえるか
・不正に口座はつくられないか

 これらの課題解決にあたり、中心的な役割を果たしたのが、現在、ジャパンネット銀行のリスク管理部長を務める早川浩功氏だ。

 早川氏が陣頭指揮をとりつつ、災害時のリスクについては、インターネットの他にダイヤルアップ(電話回線につなぐ)の方法を設けることで対応。また、ログイン時のパスワード流出リスクについては、ユーザーが入力したら即、暗号化し、データベースに登録するという仕組みで対応した。

 そして、もっとも手を焼いたのが、本人確認の作業だった。これについては、当時、日本初だったワンタイムパスワードを導入することで解決したという。

 この技術は、本人以外の人間が口座情報などを盗めないよう、本人がパスワードを入力から一分が経過すると、そのパスワードが無効になってしまうという「使い捨て」のもの。当時、セキュリティ技術の主流だった「乱数表」に対して指摘されていた脆弱性の大部分を解決したのが、このワンタイムパスワードだった。

 上記のエピソードがおさめられている、『12人で「銀行」をつくってみた―――「いつでも、どこでも」、便利な日本初のネット銀行はこうしてできた。』(ダイヤモンド社刊)。

 本書では早川氏以外にも、立ち上げ期から関わり、現在は四代目の代表取締役社長を務める小村充広氏をはじめとして、「日本初のインターネット専業銀行設立」に奔走したメンバーが登場する。

 今まさに新規事業の立ち上げに奔走しているビジネスパーソンはもちろん、現状をどうにかして打破したいと思っている読者にとっても励みになる一冊だろう。
(新刊JP編集部)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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