津波や河川の増水の危険を示す防災マップを見たことがある人は多いだろう。ただ、地図だけでは、いざ地震や水害が起きたときのことを想定しにくい。
しかし、「VR」によってその状況が可視化されると、実際にどのくらいの高さまで水が来るのか、どの方向に逃げるのが良いかといったことが事前にわかるのだ。
■なぜ、日本のソフトウェア企業は弱いのか?
本書ではフォーラムエイトの歩みとともにVRやソフトウェアの世界の最先端を知ることができる。
しかし、本書最大のテーマは、最先端情報の発信ではなく、日本のソフトウェア企業の飛躍と地位向上を目指すことにある。
アップル、オラクル、グーグル、マイクロソフトなど、海外には錚々たるソフトウェア企業がある。しかし、日本にはそれら世界的企業と肩を並べるほどのソフトウェア企業がないのが実情だ。
その理由は日本に優秀な技術者がいないからでも、独創的な経営者がいないからでもない。日本におけるソフトウェアの地位が決定的に低いからだと著者は述べる。
バブル期、ソフトウェアエンジニアは「3K」(きつい、汚い、危険)を超える「5K」、「6K」とさえ言われるほど待遇が悪かった。さすがに近年は改善されているが、それを踏まえても、未だにソフトウェア業界の社会的地位は低いままだという。
「モノづくり大国ニッポン」と言われるだけあって、日本では形あるもの(モノ、機械などのハードウェア)には惜しみなくお金をかける一方、形のないもの(アイデアやソフトウェア)にはお金を惜しむ性質がある。
ソフトウェアやソリューションの開発は、日本人の気質として根底に「ラクな仕事をしている」というイメージがあるせいなのだろう。
また、日本の若者の多くがソフトウェアエンジニアの仕事に魅力を感じていないのではないかと著者は語る。
その証拠に、日本で学生向けのプログラミングコンペを開催しても、応募してくるのはアジア諸国の学生や留学生ばかりだという。 自動運転、AI(人工知能)、ビッグデータなど、ソフトウェアを活用する機器は今後ますます増えていく。
ソフトウェアエンジニアが活躍しなければ、日本は世界に置いていかれることになる。 今、日本は窮地に立たされているのだ。
■ソフトウェアが新たなテクノロジーを切り拓く
今、自動車業界では、ソフトウェアの側面から事故防止を促進する取り組みや自動運転システムの開発が進められていることも本書で語られている。
トヨタ自動車では「交通死傷者ゼロ」の実現を目指す取り組みが行なわれている。
見通しの悪い交差点で左右から車が接近している。そんなとき、自分と相手の車が通信によってお互いの位置情報をやり取りしていれば、出会い頭の事故は回避できるはず。また、交差点で、右折先の横断歩道を渡ろうとしている歩行者を、交差点に設置したセンサーが検知し、通信で車に知らせれば、歩行者との事故も回避しやすくなる。
このように、車と車、車とインフラの双方向通信で安全運転を支援する「協調型ITS」というシステムが構築されているが、これはエアバッグやブレーキ制御システムといったハードウェアだけでは実現できない取り組みだ。
2020年頃には高速道路や自動車専用道路で、さらに、2025年頃には一般道路も含め、「自動運転」の試用開始が見込まれている。