有名人の不祥事やスキャンダルが話題になる昨今、スクープを世間に送り出している、いわゆる“写真週刊誌”自体が取りざたされるのも珍しくない。世間を震撼させる凶悪事件もさることながら、俗に言う“ゲスい”話題まで、週刊誌が白日の下に晒す情報は、新聞やニュースとは違った角度から情報を送り出し、人々の関心をさらっていく。
そんな「写真週刊誌」を舞台に新人女性編集の奮闘と成長を描く“お仕事小説”が登場した。富士見L文庫から出版された『エディター! 編集ガールの取材手帖』(上倉えり著、煙楽イラスト、KADOKAWA刊)だ。
これまでいくつもの伝説的スクープを連発してきた「週刊永冬」編集部に配属になった新米社員の上原岬。意気揚々と出社した彼女を待っていたのは、グラビアのモザイク処理や、プライベート無視の追跡取材など、女性にとって決して良い労働環境とはいえない現場だった。
直属上司の広瀬晃太郎と共に日々仕事に勤しむ岬だったが、とある出来事によって二人の間に大きな亀裂が入ってしまう。さらには追い打ちをかけるようなトラブルによって岬は窮地に追い込まれていく――。
個性豊かなキャラクターたちが織りなすテンポの良い会話劇と、さまざまな現場で起こるトラブルのジェットコースター的な展開が読みどころの本作。グラビアの撮影現場や作家との打ち合わせ風景、部決会議やデスク業務等の描写においては“編集業”のリアルさが感じられ、読者は編集部の雰囲気に浸ることができるだろう。
だが、それだけではない。本作で最も注目してほしい部分の一つが、作中で語られる“仕事論”だ。
本作では、岬以外の編集部員は日常的に汚いやり口で仕事を遂行していく。広瀬もまた然り。岬は、小説の装丁デザインを依頼したいデザイナーへのツテがなく広瀬に助けを請うのだが、彼は枕営業で仕事を取ってくるのだ。
尊敬していた上司のまさかの行為は、新卒一年目の女性にとって受け入れがたい行為で、広瀬との間に大きな溝ができてしまう。
――別に無理やり連れ込んだわけじゃない。あっちも合意の上なんだから問題ないだろ(中略)出来ることは、とりあえず全部やってみる主義なの。俺は(P149-150より引用)
この広瀬の言葉は「会社の利益のために、より確実な手段を選んだに過ぎない」というニュアンスを含んでいる。
もちろん本作はフィクションであり、実際の週刊誌の編集部がそのような手段を取っているわけではない。しかし、「もしかして!?」と思わせるリアリティさが存在するのは事実だ。
週刊誌に対する世間の目は必ずしも良いとは言えないかもしれない。それは「他人のプライベートを覗いてお金を稼ぐ」という倫理観的問題に起因する感情のためだろう。
岬が抱いた感情は、読者の感情そのものと重なる。しかし仕事は仕事。我々が日々まじめに仕事をこなすのと同じことを、もしくはそれ以上の社会的信念を持って、広瀬は仕事をまっとうしようとした結果の行動なのだ。
もちろん犯罪や違法行為はNGである。しかし、大きな信念を持って何かに挑む、といった信念や覚悟は学ぶべきところがあるかもしれない。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。