新型コロナウイルスの流行で、テレワークを導入する企業が増えた2020年。その便利さや働きやすさを享受する人がいる一方で、これまでは感じなかった不便さに気づく人もいるはずだ。
その一つが「コミュニケーション」だ。これまで当たり前にできていた雑談ができなくなったり、慣れないリモート会議のテンポに戸惑ったりと、コミュニケーションの問題を乗り越えられるかが、個人にとっても企業にとっても、テレワークを実りあるものにするカギかもしれない。
『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』(池田朋弘著、マイナビ出版刊)はこの点に注目。テレワークのコミュニケーションにまつわるトラブルやその対処法、テレワークならではのコミュニケーションの方法などを、事例を交えて解説していく。
今回は著者の池田朋弘さんと、コミュニケーションや仕事術に関する多くの著作を持つ作家の中谷彰宏さんによる対談が実現。テレワーク時代のコミュニケーション、信頼関係、働き方など広く語っていただいた。 (新刊JP)
サボっていてもわからない?テレワーク時代の信頼関係とは
――テレワークに肯定的になれないマネジメント側は「サボっていてもわからないのではないか」という懸念があるのだと考えられます。この懸念について経営側にいるお二方からご意見をいただきたいです。
中谷:早稲田の文学部は当時出席が厳しくて、僕はそれをずっとおかしいと言っていたんです。文学を学ぶ一環として授業ではなく映画館に通い詰めていたので、「映画館の半券を出席代わりにしろ」と。
池田:中谷さんは映画を大量に観ていたそうですね。
中谷:でもね、法学部は出席がゆるかったんです。全然出席をとらない。だから、下宿を借りてない学生が結構いて、試験の時だけ地方から出てきて、試験だけ受けて、またどこかに戻っていく。しかも、そういう学生の方が優秀だった。
学ぶことの本質は「学校に行くこと」ではない。同様に、働くことの本質は「会社に行くこと」ではないということなんです。
「テレワークだとサボっていてもわからない」と考える管理職がいるとしたら、その人は部下に1日8時間机の前で過ごしてほしいと考えているということです。仕事をちゃんとやっているかどうかは成果を見ればすぐわかります。2時間で成果を出して6時間休んでいるのを「サボっている」と捉えるのはおかしい。少なくとも「社員がちゃんと勤務時間内に仕事をしているのかをチェックするようにしよう」と考えるのはまちがっています。
1980年代にポケベルが出回っていた当時、シンガポールに行ったら、土木工事をしている労働者たちがポケベルを使って労働者同士で連絡を取り合いながら、実に楽しそうに仕事をしていました。一方日本では、ポケベルは会社が従業員を管理する道具だったんです。「今何してるんだ?」「得意先と打ち合わせしてます」って言って。実際は公園でサボっていたりした。
池田:同じツールでもコミュニケーションを円滑にするために使うのか、監視装置のように使うのかで従業員の働きがいも会社の文化もまったく違ってきます。リモートワークにしても、勤務時間中にパソコンにログインしているか調べたりするのは意味がない(笑)。
ただ、テレワークは働いている姿が見えないので、上司が不安になりやすい環境ではあるんですよ。だから、快適に働くためにも、「上司を不安にさせない工夫」はある程度は必要です。これって難しいことではなくて、はじめのうちはこまめに連絡をして、仕事の過程を見せておけばいい。そのうち「あいつは、任せておけば大丈夫だ」となってくるので。
――中谷さんは「テレワーク時代の信頼」についてはいかがですか?
中谷:eスポーツのゲーマーになりたいっていう子に「まず親を安心させること」とアドバイスをしたことがあります。「ゲームは1時間までだぞ」と言われているうちは、まだ親からの信頼がないわけです。勉強や普段の生活をしっかりやってそこをクリアしてしまえば、たとえ親がeスポーツにあまり理解がなかったとしても、好きなことができる。
自分が働きやすくするために周囲の信頼を得る方法もこれに似ています。上司を安心させられれば勝ち。加えて言うなら「自分のやりがいのためなら、“手柄”はどんどん他人にあげろ」です。
僕は会社員時代、どうでもいい会議の時に「これは〇〇さんが言っていたことなんですけど」と、上司の名前を出して発言を引用した。「これはこういうことですよね、○○さん」と、周囲の人にボールをパスしたりしていました。こうやって周囲の人に手柄を譲っていたんです。僕にとっては小さな手柄よりもやりがいの方がずっと大事だったからです。これでずいぶん働きやすくなりました。これが手柄もやりがいも両方求めてしまうと、自己肯定感が下がるし、あまりうまくいきません。
――テレワークは単純にはたらく場所の問題ではなくて、導入する企業の中には人事評価などの制度設計を見直す必要が出てくるところもあると思います。テレワークに適した社内制度作りについてはどのようにお考えですか?
池田:中谷さんのお話にありましたが、もう「〇時間稼働しました」という時代ではなくて、アウトプットや任された仕事を評価するという制度に変えていく必要があります。
ただ、これはすぐに変えられるものでもないんですよね。日本はいわゆる「メンバーシップ型(新卒一括採用のような形で採用した人材を社内で育成していくスタイル)」の企業が多くて、欧米のように「ジョブ型(ある仕事に対してその仕事のスキルを持った人材をつけるスタイル)」は少ない。テレワークと相性がいいのは断然仕事の守備範囲がはっきりしているためにアウトプットの評価がしやすいジョブ型なのですが、いきなりは変えられませんから、徐々にジョブ型にシフトしていきながら、仕事のアウトプットだけでなく過程も見えるような形のテレワークをやっていくことも必要かなと思っています。
中谷:日本の企業がだんだんジョブ型にシフトした結果として、他者から評価されるということを期待しなくなればいいです。
< 「こんなにがんばっているのに、会社は評価してくれない」と思っているうちは上司の奴隷、会社の奴隷です。ジョブ型になって「時間」や「がんばり」ではなく「アウトプット」で評価されるようになれば、状況は変わるのでしょうが、それだけではまだ会社からの評価がついて回る。「別に評価なんてどうでもいい。自分さえやりがいを感じられればそれでいい。その代わり、いつでも辞めるよ」という風に考えられるようになると、会社や上司と同等になれる。ジョブ型へのシフトをきっかけに、そういう人が増えてくれればいい。
――今のところテレワークは「出社の代替手段」として導入されているケースが多いと思いますが、今後それだけに終わらず、独自の価値を生み出すことはあるのでしょうか。またそれにはどんなことが必要になるのでしょうか?
中谷:独自の価値を生み出せるかどうかはその会社次第です。はじめのうちは「代替」でもいいと思いますが、そこからスタートして、「結果オーライかもしれないけど、この部分はオフィスにいた頃よりいいよね」というのを、テレワークをしながら発見していける会社は強い。
そして今はチャンスです。平時に組織を変えるのは非常に難しい。今はコロナ禍で特殊な環境です。日本人のおもしろいところで「こういうご時世なので・・・」と言えば何かを大きく変えても文句が出ないんです。「こういうご時世なので」と言っておけばあらゆる改革ができます。コロナとうまく利用して組織を改革していくと生き残ることができます。
池田:テレワークの独自の価値というところで、オフィスワークでは活躍しにくい人が活躍できることが大きいと思います。たとえば「白血病を治療しながら在宅で働く」ということはテレワークでないと難しいですし、介護と仕事の両立もそうです。「誰一人取り残さない」というSDGsの方向性にテレワークは合致すると思っています。
また、企業にとってもテレワークは「採用・離職防止」の大きな一手になります。あるアンケートでは就職における学生の最重視項目が「テレワークができるかどうか」でしたし、「テレワークを導入しないので転職を検討」という声もあります。「社員が会社に合わせる」という考え方ではなくて、「社員も会社もともに相手に合わせる」が今後長期的に発展する会社のスタンダードな考え方になるのではないでしょうか。
今回の本ではテレワークの導入について、起こりうる問題やその対処法についてまとめています。中谷さんの言葉をお借りしますが「こういうご時世なので」ぜひ読んでいただきたいです。
(新刊JP編集部)
※池田朋弘さん・中谷彰宏さん対談前編はこちら。※外部サイト(新刊JP)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。