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危機でも成長し続ける会社と、危機に対応できない会社。その違いはどこにある?

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※画像:『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社刊)

 リクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンク。


 この3つの日本を代表する企業は、多くの会社の「お手本」とされる存在だ。それぞれのマネジメントや仕組み・制度、フレームワークを解説する本も数多く出版されている。


 会社が危機に瀕したとき、まずは成功している企業のやり方を学び、それを取り入れるという手段は定石と考えるかもしれない。しかし、単純に他社の成功事例を取り入れても、自社と合わなかったり、うまく機能しなかったりすることも多い。そもそも冒頭にあげた3社でさえ「さまざまな危機を乗り越えて成長し続けている」という共通点はあるが、3社を解剖すると、業態もビジネスモデルも、そして内部のマネジメントの方法もそれぞれ異なることがわかる。では、まずそれぞれどのような特徴があるのだろうか?

 

■リクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクそれぞれの「違い」


 たとえば、リクルートはそれぞれの課を「プロフィット・センター」と見なし、活動の自由度を高め、利益にコミットさせている。各プロフィット・センターが利益を出せば、リクルート全体の利益があがるという考え方だ。


 一方、ファーストリテイリングは、製造から販売までを一貫して行う「製造小売業」で、組織一体になることが求められる。また、利益率の高いビジネスを展開できるが、売れ残りがあると大打撃となるハイリスク・ハイリターンのビジネスでもある。


 最後のソフトバンクは、孫正義氏のトップダウンというイメージが強いが、実際は、孫氏と主要幹部クラスとのブレストで戦略を決めているという。「他人の脳を自分のものにする」といったところだろう。また、社員がソフトバンクのビジョンに強くコミットしているのも特徴だ。


 このように、企業文化もマネジメントの方法も三者三様なのだ。


 ゆえに、たとえばリクルートに近いマネジメントをしている企業が、ファーストリテイリング的な「仕組み・制度・施策」を学んで取り入れ、組織変革を起こそうとしても、まったく合わないということが起こりえる。


 では、危機を乗り越えるために組織を変えるには、いったい何が必要なのか。


 その答えが『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(松岡保昌著、日本実業出版社刊)に書かれている。


 本書はリクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクを渡り歩いた著者・松岡保昌氏が、3社での経験や事例をふんだんに織り交ぜながら、あらゆる企業が組織を変革していくために何が必要なのかを解説する多くの示唆に富む一冊だ。「起業を目指すビジネスパーソンが今、読んでおくべき8選」で取り上げられたり、Amazonのユーザーレビュー数83、星平均4.3(2月15日現在)と高い評価を得ている。

 

■「理念」「強み」「仕組み・制度」は三位一体である


 私たちは、会社を変革しようとするときに「仕組み・制度・施策」の導入や変更から入ろうとする。それ自体は間違っていないが、えてして、そのときに話題になっている他社の成功事例を取り入れようとしがちである。


 しかし、それではうまくいかない。それはなぜか。その会社のめざす「企業理念」、強みとなる「コア・コンピタンス」の視点が欠けているからである。松岡氏はこう指摘する。


組織戦略がうまくいくには、少なくともその会社がめざす「企業理念」が明示され、その会社の強みとなる「コア・コンピタンス」が発揮され、それを強化するための「仕組み・制度・施策」が導入され、機能していなければならない。(p.31より)


 本書から、自社の「コア・コンピタンス」を見誤って失敗した事例を紹介しよう。


 松岡氏がかつてコンサルティングで関わった地方都市を中心に展開する携帯電話の販売会社のケースだ。松岡氏よりも以前に入っていたコンサルティング会社によって、その携帯電話の販売会社には、優れた人事制度が導入されていた。一般によくある業績向上の視点だけではなく、企業理念をも実現させようとする評価指標が設定されていたのだ。しかし松岡氏は、その評価指標の一部に違和感を抱いた。評価指標で「効率性」が重要視されていたからだ。


 携帯電話の販売会社にとって顧客数と売上は密接に関わるため、「効率性」は重要な指標だ。しかし、この会社にとってはその指標を重視することが裏目に出てしまい、景気が厳しくなったタイミングで業績が悪化してしまったのだ。


 なぜなら、この販売会社の顧客の中には、携帯電話へのリテラシーが低い高齢者も多かった。そのため、訪れた顧客1人ひとりに丁寧に教えることで顧客満足度を高め、顧客が新しい顧客を紹介する形で業績を伸ばしていた。しかし、導入された評価制度によって現場での効率性が過剰に重視され、自ら「強み」を潰してしまっていたのである。


 そこで、松岡氏は一定の効率性は維持しながらも、顧客が友人や知人に紹介したくなるような行動をとった人が、より評価される仕組みへと変えた。


 これこそ、まさに自社のコア・コンピタンスを見誤った形で制度が導入されたがゆえに起きた失敗とその改善例だ。人事の「仕組み・制度・施策」は、社員に企業理念の体現を促し、コア・コンピタンスを強化するようなものでなければならないのだ。

 

■危機に対応できる会社、できない会社の分かれ道


 松岡氏が語る、組織変革の常道は、まず組織の現状を分析し、「良い企業文化」と「良くない企業文化」をあぶり出す。そして、「理想の企業文化」をイメージし、その理想に辿り着くまでの課題を洗い出し、それをさまざまな「仕組み・制度・施策」へと昇華させ、1つひとつ実施していくことだという。


 とりわけ危機を乗り越え成長し続けるためには、時々の状況を打破するための「理想の企業文化」をイメージできることが重要だ。「理想の企業文化」は、企業理念を実現し、コア・コンピタンスを研ぎ澄ますためには、社員がどんな考え方を持ち、どんな行動をすることなのかを考え抜くことで見えてくるという。


 その理想を社員と共有し、社員一人ひとりが求められる考え方や行動の必要性を納得した時、企業はひとつの方向へと動き始める。その流れを促進させるものこそが、人事の「仕組み・制度・施策」なのだ。この理想の設定と共有ができるかどうかが、危機に対応できる企業と対応できない企業の分かれ道となる。


 本書を読むと、マネジメントの形がまるで違うリクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクの3社においても、危機を乗り越え、成長し続けるための共通項があることに気づくだろう。その一つは、危機に直面した時の、それを乗り越えるための社員の本気度だ。どの企業にも求められる社員を本気にさせる仕組み、人が自ら動き出す企業文化になるための道筋が示されている。


 また、この他にも「コミュニケーションは会社の強さを支える陰の主役」として、コミュニケーションの重要性、そして会議の効果を高めるための方法についても触れられている。実際に、リクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクという3社の事例を見ても三者三様で、会議で何を重視しているのかが異なる点が面白い。ここで紹介されている会議のコツは、オンライン会議においても活用したい内容だ。



 組織が硬直してしまうと、コロナ禍のような社会的な危機にも、社内で起きたクリティカルな問題にも対応できなくなってしまう。常に成長し続ける組織に変革するためには何が必要なのか。本書はその答えと方法を提示してくれる1冊である。(新刊JP編集部)


※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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