リーダーは「強制」を活用しろ!
ビジネスの具体例を挙げよう。
例えば、自動車の製品企画担当者が、デザインの基本や価格、燃費まですべて自由に任されても困るだろう。それぞれの専門スタッフが算出したデータに基づき、トップダウンで方針が決定されなければ、会社の命運が企画担当の迷いに左右されてしまう。強いトップダウンによる「強制」によって、企画者の「迷う自由」が取り除かれ、進むべき方向に向かって、自由にのびのびと創造性が発揮されることになる。
逆にリーダーは、強い指示とチェック、思いきった権限委譲を行うべきである。
米アップル元CEO・スティーブ・ジョブズのトップダウンの強制力が凄まじかったことは有名だ。しかし彼は、プロセス/方法はいっさい指示せず、戦略と商品企画以外は思い切って社員に任せた。もちろん結果へのチェックはきびしい。それでも「自由がない」と不満を漏らす社員はおらず、彼らは世界一の創造性を発揮している。
ここでサッカーに話を戻そう。
戦術が明確なザッケローニ監督の優れている点は、トルシェや監督初期の岡田のように、自分の戦術から外れるプレーをした選手をすぐに外すのでなく、結果OKであれば、「あの時は選手の判断が正しかった」などと、むしろ褒める許容力があるところだ。要は、ビジネスも「売ってなんぼ」だが、サッカーも最終的には「得点を入れてなんぼ」という挟持が必要なのだ。これにより、選手の個性を殺さず、臨機応変さを妨害せず、かえって自分の戦術を選手に浸透できる。本田選手も、今では今野選手と同じ受け止め方に変わっているのでないか。
これは、ビジネスリーダーにも当てはまる。リーダーが自分の方針を打ち出し、部下に多少の逸脱があっても、大きく構えて部下を包み込み、勝負強くなるように育て、最終的に自分の思う通りに全員を巻き込んでいくーーこれこそが、リーダーシップ。
最終予選で、日本代表が勝つか負けるかの「観戦」だけでなく、ザッケロー二監督おハコの攻撃「3ー4ー3」をいつ使うのか? そしてリーダーシップの発揮の仕方、選手の受け止め方まで「観察」すると、より一層楽しめる。意外にもこうした要因のほうが、最終予選を突破できるかどうかのカギを握っているのかもしれない。
(文=大西 宏/コンサルタント ビジネス作家)
●大西宏(おおにし・ひろし) パナソニック元営業所長、元販売会社代表。同社サッカー部長時代はガンバ大阪発足の陣頭指揮を執り、釜本邦茂監督を招聘した。退職後は関西外国語大学教授などを歴任し、現在、キャリアカウンセラー、産業カウンセラーとして企業や現役ビジネスパーソンのサポートを行っている。