あと少しで新年度が始まる。
多くの企業に新入社員が入ってくるこの時期だが、これまでの常識が通用しない「困った新人」のエピソードは新年度の「風物詩」になっている。
頼んだ物と違う物を持ってきた新人、指摘すると「どうして僕を否定するんですか?」
『困った新人を輝く新人に変える「意識カード」』(現代書林刊)の著者で、美容室を神奈川県内を中心に国内5店舗、ロンドンで1店舗を経営する富永厚司さんも、「困った新人」に悩まされてきた一人。
富永さんが自社の新人に違和感を持つようになったのは平成16年頃、ちょうど「ゆとり世代」と呼ばれる世代が新人として採用されはじめた頃だったという。
「おはようございます」「お先に失礼します」といった挨拶ができない、客にタメ口で話すといったことは序の口、「客に向かって咳をしても平気」「電話に出られない」、なかには、美容室に就職したのに「立ち仕事は足が痛くなるから辞めます」と言って去っていった新人もいたという。
当然、これでは彼らに教える側も疲弊し、ストレスを溜めることになる。職場の雰囲気は悪くなる一方だった。
ある日、「○○を持ってきて」と先輩に指示された新人が、頼んだものとは別のものを持ってきた。それを指摘すると「どうして僕のことをそんなふうに否定するんですか?」と言った。
常識的に考えればおかしな理屈だが、必要な情報を伝えようとしても、彼は先輩から何か指摘されること自体を自分の存在そのものへの否定と受け取ったのだ。そのやりとりを知った富永さんは「先輩から変わるべきだ」と思ったというが、どうすればいいかわからず、途方に暮れていたという。
転機となった一枚のメモ
転機となったのは、一枚のメモだった。
富永さんはある新人の客への対応について注意したい点があったが、業務中で忙しかったこともあり、伝えたいことを小さなメモに書いて本人に渡したという。
すると、その新人は富永さんの注意を実践した。それまで口頭でいくら注意してもうまく伝わらなかった新人が、メモで伝えるとメッセージを正しく理解して、取り入れたのである。
思えば、口頭でのコミュニケーションには、言葉としての情報の他に、表情や声色、話し方などによって様々な付帯情報がついてまわる。それらの受け取り方は聞き手の主観に委ねられるため、時として誤解や無理解を招いてしまう一方、メモなら受け手にとっての情報は文字だけ。それを読み取るだけでいいのだ。
この経験から、富永さんは新人の育成にメモを活用するようになった。名刺サイズのカードにそれぞれの新人の目標を週単位で書いて渡す。新人は先輩から提案された目標を達成するための行動を自ら考えて、報告する。カードは掲示板等に張り出して共有し、先輩は新人の行動を見守り、点数で評価する。
この方法によって、富永さんの美容室は入ったばかりの新人とのコミュニケーションで疲弊することはなくなり、新人が短期間で自主性を持って仕事に取り組むようになったという。
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若者を「○○世代」と名付けてひとくくりにし「理解不能な存在」として扱うのは、自分が傷つかないための年長者の自衛手段だと富永さんは言う。職場で戦力になるための新人は成長しなければならないが、先輩や上司も変わらなければならない。
富永さんが考案したカードによる新人教育法の詳細とその効果は、本書でさらに詳しく解説されている。毎年新人に悩まされている職場は、取り入れるべき点は多いはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。