100回目となる全国高校野球選手権大会(甲子園)が8月5日からいよいよ始まった。56の代表校が頂点を目指して、白球を追いかけている。
そんな甲子園の出場校の中でも、強豪校として注目を集める横浜高校野球部。渡辺元智前監督が2015年夏で勇退し、平田徹監督が就任してから3年連続の夏の甲子園出場となる。
この名門校の強さの源となっているのが「食事」だ。今年3月までの約20年間、横浜高校野球部合宿所「徳心寮」の寮母として選手たちの「食」を支えてきたのが、渡辺前監督の次女である渡辺元美さんだ。『甲子園、連れていきます! 横浜高校野球部 食堂物語』(徳間書店刊)は、横浜高校野球部の選手たちを「厨房」から支え続けた寮母と素顔の球児たちとの食堂物語である。
■「食事は楽しく!」がモットー、人気メニューの秘密は「カフェ」にあり?
渡辺前監督が横浜高校の監督となった当時は合宿所がなかったため、選手を自宅に住まわせ、それは合宿所ができた後も延々と続いていたという。
元美さんの母である紀子さんはこの頃から寮母として、選手たちを支えていた。横浜ベイスターズで活躍した鈴木尚典さんは渡辺家に下宿した選手の一人だ。
生まれたときから野球部員たちが下宿する環境で育った元美さんは、実家に戻った26歳の頃から紀子さんの寮母の仕事を手伝うようになり、30歳を迎えるあたりで紀子さんから寮母を引き継ぐことになる。
元美さんの寮母としてのモットーは「食事は楽しく!」。これは、厳しい練習に励み、気の抜けない試合に挑む選手たちだからこそ、唯一の楽しみと言っていい食事の時間を休まるものとしてあげたい、という想いからだ。
部員たちに人気のメニューが意外にも「ロコモコ」だ。「カフェで人気」のメニューというのがミソだ。おいしく食べる要素には見た目も重要だと元美さんは考えている。
部員にとって、なんの飾り気もない合宿所の食堂だが、そこに練習のない休みの日に出かけて入ったカフェにあったメニューが出てくるのである。また、どんぶり一つにすべての食材が盛られているため、寸暇惜しんでトレーニングに励む選手たちにとって、素早く食べることができるのも利点だ。
「食べるという字は『人』を『良』くすると書く」――これは、渡辺前監督が部員たちによく言っている言葉だ。
野球に限ったことではなく、技術や精神力を培っていくうえで一番大切なものは「体力」である。そして、この体力をつけるためには、とにかく食べること。食べることで人は良くなるのだと。
元美さんも、まったくその通りだと述べている。食を通して、選手たちの体調や精神面がわかる。寮母の元美さんだからこそ、選手たちが話せることもある。こうして、元美さんは「食」を通して、選手たちを支え続けてきたのだ。
多くのプロ野球選手を輩出している横浜高校。寮母の元美さんだからこそ見せた、松坂大輔選手や柳裕也選手(ともに中日ドラゴンズ)といったOBの選手たちの高校時代の素顔も垣間見ることができる本書。
「食」というテーマから横浜高校野球部の強さの秘訣を知ることができる1冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。