歌手で俳優のGACKTが中核メンバーとして広告塔を務め“GACKTコイン”とも呼ばれる仮想通貨「SPINDLE(スピンドル)」が、5月に世界5カ所の仮想通貨取引所に上場後、暴落している。一部では警視庁もGACKTを捜査対象にしているとの報道もあるが、真相はどうなのか。
ジャーナリストの伊藤博敏氏は、「無名の仮想通貨を使ったICO(仮想通貨を使った資金調達。「イニシャル・コイン・オファリング」の略)は反社会的勢力が跳梁跋扈する世界。日本では銀行口座やカードを持てない彼らにとって格好の資金調達の場になっている」と語る。
野田聖子総務相の夫・文信氏もスピンドルに関与。野田氏本人もGACKTと知り合いであり、スピンドル運営会社の仮想通貨業者ブラックスターに資金決済法違反の疑いを指摘していた金融庁に対して、同社への説明を求めたことも明らかになっている。これにより、野田氏の自民党総裁選出馬が危ぶまれる事態となり、さらにはスピンドルへ投資して多額の損失を抱える人も続出するなど、騒動は広がりをみせているが、スピンドルをめぐる問題点や今後の展開などについて、伊藤氏に話を聞いた。
――スピンドルには、どのような問題があるのでしょうか。
伊藤 スピンドルは、参加者が自分の資金と引き換えにSPDトークン(スピンドルの通貨記号SPDの通貨引換証)を取得します。それを用いて仮想通貨ヘッジファンドに投資するというICOを行ったのが、昨年10月からです。「プレセール」というかたちで募集を開始し、GACKTのプロモーションもあって人気を高めていました。そして今年5月に世界5カ所で上場しました。
スピンドルの運営会社ブラックスターは2017年末に「ホワイトペーパー」と呼ばれる事業計画書を発表しています。ただし、スピンドルのプラットフォームができあがっていないなか、仮想通貨NEM(ネム)巨額盗難事件(コインチェック社から約580億円相当のNEMが不正流出)が発生したことにより、仮想通貨自体の信頼性が落ちてしまったことも大きいのです。今は仮想通貨の価値は3分の1に下落しました。スピンドルもプレセールではうまく行きましたが、同じく大暴落しました。
――仮想通貨の将来はいかがでしょうか。
伊藤 仮想通貨はブロックチェーンなどの技術を使い、法定通貨に頼らない決済をスピーディーにできる長所があります。アフリカのよくわからない通貨よりも仮想通貨でやりましょうという話になってくるでしょうが、いつ信頼性が担保できる時代が到来するかはわかりません。
GACKTの担った役割
――GACKTはどのような役割を担っていたのでしょか。
伊藤 GACKTは広告塔、プロモーション的な役割です。それにより知名度が上がり、セミナーで人を呼べますし、ブログなどで仮想通貨の夢を語るなど、スピンドルを盛り上げるスタッフの一員としての役割を果たしたということでしょう。
――GACKTはスピンドルを売り抜け、莫大な利益を得たとの報道もあります。
伊藤 ファウンダーという創業メンバーは、ロックアップを厳しく課せられ、スピンドルを簡単には売れません。GACKTがどれだけ創業メンバーとしてスピンドルを付与されたのか、明らかにはなっていません。ただし、仮想通貨は売買の履歴が追跡可能であり、「GACKTが売り抜けた」と公言している人もいるということは、実際に追跡した人がいるのだろうと想像しています。
――ブラックスターはGACKTの応援や野田総務相の後ろ盾もあるということで、仮想通貨の世界では大きな存在なのでしょうか。
伊藤 仮想通貨やブロックチェーンの世界は実は狭い社会なのです。その世界でブラックスター元社長の宇田修一氏は有名ですが、創業メンバーの1人である宇田氏が過去に関東財務局から行政処分を受けて、“金融業務を行うのはふさわしくない”という評価を受けていたというのはまずいでしょう。
反社会的勢力も利用するICO
――ブラックスターやGACKTを警視庁もマークしているという報道もあります。
伊藤 スピンドルは金融商品ではないので、金融商品取引法の範囲内で裁くことはできません。裁かれるとすると、「金融商品でないのに金融商品のように売った」という理由で金融庁により処分が科されるかもしれません。損した投資家が詐欺だと訴えても、一応ルールに基づいて業務を行っていますので、詐欺という筋も成り立ちにくいです。偽計の広告で集めたという訴訟方法も、ブラックスターは「ホワイトペーパー」を作成しているので、偽計取引での訴えも難しいです。
ただ、ブラックスターは登録業者でないのに仮想通貨を売ったということで、資金決済法違反の疑いがかかる可能性はあります。仮想通貨の「売買」および「他の仮想通貨との交換」を事業として行う場合には、必ず仮想通貨業者の登録をしなければならないのです。これについてブラックスターの弁護士は、「スピンドルは一号・二号仮想通貨にあたらない、だから国内でも販売できる」と主張しています。そもそも仮想通貨トークンで逮捕事例はありませんし、現時点でもどの法に違反しているかも明白ではないのです。ですから、一部報道にあった警視庁が動くということは、今はあり得ません。
――結局、問題の本質はなんでしょうか。
伊藤 仮想通貨そのものより、もっと厳しい目を向けるべきものがICOです。実はかなり詐欺が多いのです。かたちだけの「ホワイトペーパー」やトークンを提出して、上場もどこか海外のわからないところで行って、それで出資者を騙すことはよくあることなのです。これは日本も海外も同じです。しかも、反社会的勢力がお金をロンダリングする格好のステージになっています。
GACKTは先端の金融システムを動かせる人間というステージアップを図りたかったのではないでしょうか。新しいものは稼げますが、実は際どい人が多い。約20年前にITブームの頃、アイディア一発で多くの会社が生まれましたが、現在はかなり淘汰されました。残った会社が健全経営を進め、ネット広告や通販業務を行っています。ICOも同じく一部詐欺師や反社会的勢力に利用されていますが、何年後かわかりませんが、淘汰後に健全な経営による円滑な資金調達で再評価されていくでしょう。
(構成=長井雄一朗/ライター)