フジテレビが連ドラで快挙、反転攻勢か…カギ握るバラエティは視聴率トップ10入りゼロ
このところフジテレビに元気が戻ってきたと、もっぱら評判だ。ドラマについては、月曜夜9時台の“月9”が前~今クールと好評だ。木曜夜10時台も今クールは調子が良い。特に両枠の今クールは4話までの平均が二桁と、16年の同クール以来の快挙となっている。
昨年6月の就任早々“非常事態宣言”を出した宮内正喜社長は、今年7月の定例会見で1年を振り返り、「必ず復活するという手応えを感じた1年だった」と総括した。また編成担当の石原隆取締役も、同会見で「最近『フジのドラマおもしろいんじゃないの』という声をちらほら聞く」と語った。番組に勢いが出ていると、経営陣は手応えを感じているようだ。
しかし、その好調ぶりは本物だろうか。確かに今年度第1四半期の編成表全体の視聴率は下げ止まりを感じさせるものがある。各種データを交え、フジの反転攻勢の可能性と課題を検証してみたい。
月9は底打ち?
フジを象徴する番組といえば、トレンディドラマでヒットを飛ばしまくった月9が真っ先に思い浮かぶ。1990年代半ばまでは視聴率20%超(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)が当たり前だったからだ。『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』『ひとつ屋根の下』『あすなろ物語』『ロングバケーション』と、大ヒット作は枚挙に暇がない。特に『ひとつ屋根の下2』(全話平均視聴率:27%)と『ラブジェネレーション』(同30.8%)などで、月9の年間平均視聴率25%超を達成した97年は、連続ドラマのベスト4を月9がすべて独占した空前絶後の1年だった。
しかし勢いは、その後衰えていく。2002年以降は月9の年間平均が20%を超えなくなり、09年以降は15%未満が続くようになった。さらに16年には、年間平均がついに一桁にまで落ち込んでしまったのである。17年は『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命- THE THIRD SEASON』が全話平均14.8%と久々に気を吐いたが、18年冬クールには『海月姫』が同6.1%と月9史上最低記録を出すなど、トンネルの出口は見えない状況だったのである。
ところが前クールの『コンフィデンスマンJP』は同8.9%と二桁には届かなかったものの、SNS上ではかなり評判になった。そして今クールの『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』は、初回から4話までの平均が10.6%。しかも3~4話は初回より数字が上昇している。「月9復活」という声が出始めているほどだ。
脱「楽しくなければテレビじゃない」
月9以外に木10ドラマにも明るい兆しが見えてきた。昨年秋クールの『刑事ゆがみ』はエンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』が主催する「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」を受賞するなど、見応えがあると評判になった。今年冬クールの『隣の家族は青く見える』も、不妊治療・LGBT・教育など社会問題と対峙した力作と評された。そして春クールの『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』は、フランス古典文学に挑み傑作の誉れ高い出来となった。
いずれも全話平均視聴率こそ6%台と結果はついてこなかった。それでも録画再生視聴率・見逃し配信数・満足度など、視聴率以外の指標では好結果を出し、大人が楽しめる本格ドラマとして、同枠の認知度と評価を大幅に押し上げた。
前述のとおり「最近『フジのドラマおもしろいんじゃないの』という声をちらほら聞くようになった」と石原取締役は語るが、これは月9より木10の貢献度が大きかったと思われる。
ドラマ以外にも、“フジの可能性”を示す番組が出てきていた。筆頭はお昼の帯番組『バイキング』だ。32年続いた『笑っていいとも!』の後継番組だが、当初は3%台前半と苦戦した。やがて坂上忍が全日でMCを務めるようになり、“ちょっとエッジの効いた生活情報バラエティ番組”を経て“生ホンネトークバラエティ”として社会問題も取り上げるようになり、数字は徐々に上がり始めた。
16年後半には4%台に乗るようになり、17年後半には5%台まできた。そして今年6月には6%前後で2週連続民放横並びトップを獲るところまで成長した。かつて12年連続三冠王時代の初めに打ち出されたキャッチフレーズ「楽しくなければテレビじゃない」は、30年の時を経て硬派な要素を取り入れ進化し始めているように見える。
編成全体の風景
編成表全体を見渡しても、同局には明るい兆しが少し見え始めている。実はフジは、1982年から12年連続三冠王を続けた後、日テレと30年近く首位争いを演じてきた。ところが直近10年は不調が続いた。05年度の視聴率は、全日9.5%・G(ゴールデン)帯14.3%・P(プライム)帯14.6%。他の追随を許さないトップだったが、17年度は全日5.7%・G帯7.8%・P帯7.7%と、10年あまりで半減に近い下がり方をしていた。
ところが今年度第1四半期は、前年同期比で全日±0%・G帯0.2%増・P帯0.2%増と、長く続いた減少傾向に歯止めをかけたのである。反転攻勢のスタート地点にようやく立てた可能性がある。
昨年6月にフジの社長に就任した宮内氏は、社長内定会見で「現在の低迷しているフジテレビの業績を上げる、この1点に尽きると」と明言した。また1月に今年の抱負を聞かれた際には、「4月改編、10月改編が結果を出さなくてはいけない勝負」と答えた。その4月改編で視聴率下落に歯止めをかけたわけで、今年7月の「必ず復活するという手応えを感じた1年だった」との総括につながったのである。
広告収入の実態
ただし、不安材料はまだ完全に払拭されたわけではない。最大の問題は広告収入の減少だ。10年以上にわたり下落を続けた視聴率の影響で、広告収入も減少が続いている。その下落ぶりは、2~3年を置いて視聴率が広告収入に反映しているように見える。総額では11年度の2481億円が、17年度に1907億円となった。その差は574億円に上り、ほぼ4分の1を失った計算だ。
「必ず復活する」ために力を注いだ今春の編成改訂。結果として第1四半期の視聴率は微増に転じた。ところが広告収入は、前年同期比で約3億円減、比率にして0.6%の減少となった。フジ単体の売上高でも9000万円、同0.1%の減少となった。番組制作費を約12億円圧縮したこともあり、営業利益は16億円増えているが、全体を見渡すと好循環に入ったとまでは言い切れない。
ちなみに同局は17年度決算の発表で、18年度通期の広告収入見通しを対前年比61億円、3.2%のマイナスと予想していた。ところが視聴率が微増した第1四半期決算でも、その予想を据え置いた。つまり状況が一挙に改善に向かうとまでは楽観していないようだ。
課題解決は今後次第
ドラマが良くなるなど雰囲気は良くなっているものの、依然として課題が残る。最大の問題は夜帯のバラエティ番組だ。フジのGP帯は日曜夜10時に報道・情報番組があるほかは、ドラマが3枠で、残りすべてがバラエティだ。その意味で同局が浮上する最大の要因は、バラエティにかかっている。
ところが過去何年も、そのバラエティで苦戦してきた。例えばビデオリサーチが発表する週間高視聴率番組10のバラエティ部門。ここ数年、日テレが6割以上を占めることが多い。しかもその比率が年々高まっている。17年度は全体529番組のうち、日テレは400番組、76%を占めた。『世界の果てまでイッテQ!』『ザ!鉄腕!DASH!!』などの日曜番組がベスト10の常連で、ほかに『踊る!さんま御殿!!』『人生が変わる1分間の深イイ話』など、10%台半ばをとる番組が目白押し。独走態勢はますます強固になっていた。
一方、フジはベスト10にランクインした前年度の番組は6本しかなかった。トップの日テレは遠く及ばず、TBSの75本、NHKの30本、テレビ朝日の18本にも大きく水をあけられていた。占有率は1%ほどにすぎない。しかもその大半は、『AKB48選抜総選挙』や『27時間テレビ』などの特別番組で、レギュラーがほとんどない。いかにバラエティの基礎体力が落ちているかがわかるデータだ。
今年度の第1四半期もパッとしない。バラエティのベスト10のなかに前年同期は1本あったが、今期はゼロに終わってしまった。ドラマや『バイキング』など、点としては元気が出てきたフジ。問題はその点を線につなげ、編成表全体の面に波及していけるか否かだろう。そのためには、日テレは言うに及ばず、TBSやテレ朝にも後れをとってしまったバラエティ番組の立て直しが急務だろう。
「楽しくなければテレビじゃない」に何を加えて付加価値を高めていくのか。フジの知恵と実行力に期待したい。
(文=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)