夏といえば「怖い話」だ。暑い夜にゾッとするような物語を聞いて、涼むのである。
さて、その「怖さ」を追求するのがホラー作家たちだ。彼らは一体どのようにして「怖い」という感情を掻き立てる物語を作っているのだろうか。
『恐怖の構造』(幻冬舎刊)は『DINER ダイナー』や『或るろくでなしの死』などで知られる小説家の平山夢明氏が、ホラーの名作を例にしつつ、人間が恐怖や不安を抱き、それに引き込まれていく心理メカニズムについて考察している。
「怖い書き方を学ぶ」ことは「恐怖」を学ぶことに繋がると平山氏。
書き方を知ると「人間が恐怖する構造」を理解できるようになり、恐怖を楽しむ視野が広がり、不安を楽しむ余裕が生まれるという。
まず、ホラー小説で重要なのは「ジャンル」である。
平山氏によれば、ホラーを書いているつもりで、実はまったく別なジャンルに取り組んでしまう書き手は多いのだという。各ジャンルにはそれぞれお約束事となるゴールがあり、そのゴールの設定は「揺るぎないストラクチャー」として、読者と契約されるべきものだと著者は考える。
例えば、サスペンスならば、「自分を窮地に陥らせるもの」の正体を解明しつつ、自分の望む日常へ戻ることがゴールとなる。
では、ホラーの最終的なゴールはなんだろうか。本書によれば、「主人公が生き残るか、それとも死んでしまうのか」が最終的なゴールだ。
小説を書くという行為は、詰め将棋のようなものだと平山氏は述べる。最初は無限の可能性があるけれど、最後の一手は1つしかない。クライマックスは「これしかない」と読者が納得できる形にするためには、最初にジャンルを見定めることが不可欠となるのだという。
また、もう一つホラー作品を書く上で気を付けたいのは、「五感に届く描写をする」ことだ。その意味で、疑いをもたらすような説明や描写は避ける。人間は恐怖を感じると脳の偏桃体という部分が刺激されるが、何かを推理したり、難文を解読する場合には、大脳新皮質という別な部位を使う。つまり、恐怖が減ってしまうのだ。
平山氏は、脳で読解するより、五感を刺激する書き方を心掛けているという。どんな匂いを嗅いだのか、どんな音が聞こえたのか、どんな感触がしたのか、というように、「説明」ではなく「描写」になるように書いているのだ。
恐れるものの正体を理解できれば、人生もコントロールできるということになる、と平山氏は述べる。恐怖を知り、恐怖をより楽しむことができる一冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。