「またこの人と会いたい」
「あの人ともう一度仕事をしたい」
相手にそう思わせられたらビジネスパーソンは勝ちだ。転職しても、独立・起業しても、食いっぱぐれることはない。
ただ、そこに至るまでが難しい。また会いたいと思わせる「人たらし」には、スキルや経験だけではなることができない。
■「俺を快適にしろ」に応えつづけて気づかいを磨いた男
相手を魅了し、自分を好きにさせるために不可欠なものは、端的にいえば「気配り」「気づかい」だ。
言い換えれば「自分は大切に思われている」「私はこの人にとって重要だと思われている」ということを行動や言葉で伝えることだが、これを過不足なくできる人はごくわずかだろう。カンのいい人はすぐにできるが、できない人はいくら教わってもできない、といった類のものである。
あらゆる業界の中で最も気配りが必要とされるのは「落語」の世界かもしれない。
『慶応卒の落語家が教える 「また会いたい」と思わせる気づかい』(WAVE出版刊)の著者で落語家の立川談慶さんが、立川談志さんに弟子入りした当日、師匠から言われたのはただひと言。
「俺を快適にしろ」
だったという。
字面だけ見ると傲慢な印象も受けるが、そこには師匠の意図がある。
誰かを快適にするには相手の言動すべてにアンテナを張り巡らせる必要がある。相手が何を求めているかを察知できない人間には、仮に芸を仕込もうとしてもそれを受け取る感受性がない、というわけだ。
まして、落語はお金を払って見にくる客と直に触れ合う仕事。失礼のないような作法としても、気づかいは必要になる。9年半におよんだ弟子生活で身につけた気づかいは、後の談慶さんを大いに助けたという。
■すべては目に表れる
そんな談慶さんが、気づかいのポイントとして挙げているのが「目から発せられる情報を読み取ること」。落語家の弟子には、師匠が楽屋で熱いお茶を欲しているかぬるいお茶を欲しているかまで様子や言動から察する、異様なまでに細かい気づかいが求められる。
思えば、目には人間の感情と思考が宿る。視線の先にあるもので、その人が欲しているものが読み取れることもあるし、喜んでいるのか不満なのかも感じることができる。
視線から相手の状態を読み取るには、観察力と読解力、そして批判精神が必要だと談慶さんはいう。そして、この3つの力を養うためには徹底的な「下から目線」が必要だとも。
相手を快適にするために、自分のプライドは邪魔になる。一度それらを捨てて、一番下の立場から物事を見ることが、気づかい力を身に着ける近道なのだ。
◇
『慶応卒の落語家が教える 「また会いたい」と思わせる気づかい』には、談慶さんが弟子時代に身に着けた気づかいのポイントや、売れっ子芸人が行っている気くばり術、実は気づかい上手でもあったという師匠の談志さんとのエピソードなど、気づかいについての知見が数多く明かされている。
「あの人と仕事がしたい」と思われる人になるか、スキルや実績の割に評価されない人になるかは「気づかい」次第といっていい。前者を目指すなら談慶さんの「噺(はなし)」は身を助けてくれるはずだ。
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。