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なぜ多くの企業の人事評価制度は形骸化の道を進んでしまうのか

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『中小企業のための人事評価の教科書』(総合法令出版刊)
『中小企業のための人事評価の教科書』(総合法令出版刊)

 ビジネスを取り巻く環境はここ数年だけを見ても大きく変化している。新型コロナウィルスの感染拡大によってリモート勤務が広がり、新しい働き方として迎えられた一方で、マネジメント層を中心に戸惑いの声もあがっている。

 それだけではない。遡ると、成果主義、OKR、ノーレイティング、働き方改革、エンゲージメント、ティール組織、さらにはジョブ型雇用に至るまで、新たな言葉が生まれては流行した。会社側はそれに合わせて新たな人事制度を設けるものの、「社内には馴染まない」という理由から廃案になるケースも多い。

 これらはどれも会社を成長させ、業績を向上させるための手段だったはずだ。しかし、それがいつしか形骸化してしまい、「何のためにやっているのかわからない」という声があがるのが、日本企業が抱える問題点と言えるだろう。

なぜ多くの企業の人事制度は上手く機能していないのか?

 経営コンサルタントとして150社を超える企業の人事制度の構築・運用に携わってきた宮川淳哉氏は、多くの企業で人事制度が機能不全に陥っている原因について次のように指摘する。

結局「人事評価」に対する本質的な認識の共有ができていないまま、表面的に制度を構築して走らせているためというのが結論です。(『中小企業のための人事評価の教科書』p.2より)

 鍵はここで出てきた「本質」という言葉だ。この本質をつかめなければ、人事制度は上手く機能しない。逆に言うとこれをしっかり認識し、共有していれば、機能をするということになる。

 その人事制度の本質をゼロから説明し、具体的にどのように考え、制度を作り、運用していけばいいのかが書かれているのが、宮川氏が執筆した『中小企業のための人事評価の教科書』(総合法令出版刊)である。

人事制度の目的とは一体何か

 本書には目標をマネジメントし達成に向かうためのツールや、評価・育成のためのツールが詳しく説明されているが、まずは本質の部分、つまり「人事制度の目的」を認識することが必要だ。

 その目的について、宮川氏は次のようにつづっている。

人事制度の目的は「目標管理・評価制度というマネジメントツールを活用してマネジメント活動を推進し、社員の成長を後押しし、経営成果と業績向上につなげること」(同書p.65より引用)

 本書でも繰り返し述べられていることがある。それは、人事評価制度は単なる昇給ための仕組みでも、それなりの組織になってきた証でもなく、マネジメントツールであるということだ。このマネジメントツールを使って、社員の成長を促し、経営成果と業績の向上につなげるということが真の目的なのである。

 そのためには、評価を単なる査定の場としてだけ機能させるのではなく、育成との連動が必要だ。マネージャーは部下に対して評価を伝える場で、フィードバックだけでなく、次の期に求める成長課題を伝え、その時から育成計画をスタートさせることが求められる。

 「評価は成長・育成のため」とはよく言われることであるが、実際にそのように運用できている企業・マネージャーはほとんどいない。査定のためのツールになってしまっているので、評価者も評価を受ける側も面倒で憂鬱な作業になっているのだ。その点では、人事担当者やマネージャーがこれまでのやり方を見直し、評価制度をマネジメントに活用するという意識改革も必要になるだろう。

人は経験によって大きく成長する「70:20:10の法則」

 人事制度の真の目的を認識した上で、マネージャーは部下のマネジメントに取り組んでいくことになるわけだが、その具体的なやり方についても本書は網羅している。そちらはぜひページを開いてほしいのだが、その中から一つ、人材の成長に関するトピックを紹介しよう。

 「70:20:10の法則」を知っているだろうか。これは、その人の成長に何が影響を与えてきたのかの割合であり、70%は「経験」(実生活や仕事における経験をこなし、問題解決をすることでもたらされる)、20%は「他者」(上司やメンターといった他者からのフィードバック)、10%は「研修」(正式なトレーニングや研修)であるという。

 となると、マネージャーは部下にいかに成長の70%を占める実際の経験を積んでもらうかということを考える必要がある。宮川氏はこれに対して、突発的な経験ではなく、計画的に経験を積むという点に重きを置くことをすすめる。

 本書では等級別に求められる能力を定義した「等級別要件基準書」が掲載されているが、その人がいる一つ上の等級の達成度を評価することで、経験を計画的に積ませるチャンスを作るといいだろう。また、経験を学びにつなげていく成長サイクルによって「再現性のある能力」に進化させることの重要性も説かれている。部下の振り返り・気づき・教訓化を促す質問例も紹介されているのですぐに実践できるのではないだろうか。

 ◇

 どんなに新しい制度が流行しても、人事評価やマネジメントの本質は変わらない。その本質さえしっかりと認識できていれば、人事制度が形骸化することはないはずだ。

 本書ではテレワークやジョブ型雇用に対しても言及されており、頭を悩ませている人事担当者やマネージャー、経営陣にとっては大いに参考になるだろう。また、人事評価・目標管理に用いる各種フォーマットを紹介しており、すぐに使えるツールとしても活用可能だ。人事評価を見直したいとき、どう評価していいのかわからないとき、マネジメントに迷ったとき、ぜひこの「教科書」を開いてみてほしい。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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