人生は山あり谷あり、決して楽な道ではない。
思いがけない喜びや心の安定、光が見えているときもあれば、落とし穴があったり、隣の芝生が青く見えたり、激流に行く手を阻まれるときもある。
「たいした試練も災難もなく人生を送れるのは、よっぽど運がいい人だけ」――そう述べるのは、臨床心理士のエマ・ヘップバーン氏だ。そして、この起伏の激しい道を歩き続けていくには、自分自身のメンタルをケアし、疲労を取って整えていかねばならない。
では、どうすればいいのか。
その方法を教えてくれるのが、ヘップバーン氏の著書『心の容量が増えるメンタルの取扱説明書』(木村千里訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)だ。
あなたの感情の容量はどのくらい埋まっている?
私たちの生活を混乱させるストレス。溜まりすぎてしまうと、頭はぐちゃぐちゃになり、次の行き先を見失ってしまう。本書ではそんなストレスの対処法がつづられている。
その一つが、感情のキャパシティを把握するという方法だ。
ヘップバーン氏は、感情の容量には限界があると語る。それを「キャパシティカップ」と呼ぶ。そして、このカップの空き容量は何かするごとに減っていく。ネガティブなことだけではなく、楽しいイベントでさえも、多少は容量を食う。
カップの中身はひっそりとたまっていき、いつの間にか容量ギリギリになってしまう。そんなとき、ちょっとでもストレスがかかると、カップの中身はあふれ出てしまう。「たいしたことじゃないのに、なぜ過剰反応してしまうんだろう」「ふだんならできることなのに、なぜできないんだろう」――そう自分でも思ってしまうような状況が起こるのだ。
そこで本書では、「キャパシティカップ」を実際に書いてみるというワークを実践する。
カップの絵を描き、今、自分の感情の容量を消費しているものを、カップの底から順に書き出していくのだ。今抱えている不安、心配なこと、未来のイベントの計画、仕事や育児などの日課。どんどんカップの中身が埋まっていくはずだ。
ヘップバーン氏は、「自分は、もともと使える容量がかぎられている」という事実を認識し、受け入れることが大事だと述べる。そうすれば、優先順位を考えながら、残りの容量を有効に活用できるようになるからだ。
カップが埋まってきたときのサインを見逃さない
では、「キャパシティカップ」が溢れてしまう前に何か対処することはできないのだろうか。
ヘップバーン氏は「カップが埋まってきている」というサインに気づくことがコツだと述べる。そのサインは人それぞれで、肩に力がこもったり、呼吸が浅くなったりすることもある。
重要なのは、カップからあふれる寸前となっている「レッドゾーン」で気づくのではなく、その前の「イエローゾーン」の段階で、自分の感情の容量が埋まってきていることに気づくことだ。
自分自身を振り返り、どんなサインが起こるかを書き出して把握する。そうすることで、「もうすぐレッドゾーンだ」というところで、感情のメンテナンスをすることができるようになる。
私たちはストレスフルな世界に生きている。ヘップバーン氏は、仕事のプライベートの両立を「無謀な試み」と述べ、常にやることに追われている現代人に警鐘を鳴らす。
誰もが心を疲弊させてしまう可能性がある。心が疲弊すれば、身動きが取れなくなってしまい、前に進む一歩すら出せないという状況に陥ってしまうこともあるだろう。メンタルの問題に関係のない人はいない。今、自分の心がどんな状態なのか、どう扱えばいいのか、本書を通して学んでみてはいかがだろう。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。