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PDCAばかり追いかけている企業がイノベーションを起こせない理由

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※画像はイメージ(新刊JPより)。

 想像してみてほしい。

 電力や食糧が完全に無料で提供される世の中になったとしたら、私たちの暮らしや社会はどのように変わるだろうか。

 まず、個人の変化としては、働き方が変わるかもしれない。インフラや食糧が無料になるのだから「食い扶持を稼ぐ」必要がなくなり、余裕が生まれる。そうなると新しいことに挑戦する人も増えるだろう。

 一方、社会に目を向けると、飢餓問題など解決されうる問題もあるが、貧困や格差など残る問題もある。そうした問題の解決にビジネスチャンスが生まれる。

 こうした未来を語ると、夢物語と思われるかもしれない。しかし今、イノベーションを起こし、世界の最先端を走っている起業家たちは、それを夢物語とは思っていない。現実の社会が想像した未来のようになることを確信している。

イノベーターたちは未来から考える


 この究極的な未来志向の思考プロセスを「フォートフォワード」と呼ぶ。そして、未来を現実のように考える視点を持って今の世の中を見ると、まるで見え方が変わってくる。不便さ、不合理さ、違和感が強烈に浮かび上がり、見えるもの全てが大きなイノベーションのチャンスに見えてくるのだ。

 この強烈な違和感によって突き動かされる思考が「トランスフォーメーション思考」だ。未来の目標地点から現状を考え、ギャップを埋めていくという点では「計画思考」が思い浮かぶが、トランスフォーメーション思考はすでに目標地点に立っている状態から現状を見るため、未来の世界に臨場感を覚え、変えていくことに対する情熱も段違い。現実的なアクションの積み上げをしていく「計画思考」とは大きく異なる。
まさに、社会を変革し得る力を持っているのがトランスフォーメーション思考といえる。

 そんなイノベーションを巻き起こす思考法とその実践プロセスを解説するのが『トランスフォーメーション思考 未来に没入して個人と組織を変革する』(植野大輔、堀田創著、翔泳社刊)である。

イーロン・マスクが見ている、とてつもないスケールの未来


 このトランスフォーメーション思考において、知っておかなければいけない根幹をなす概念がある。「MTP(Massive Transformative Purpose)」だ。本書ではこの「MTP」を次のように定義づけている。

「個人や組織が最低30年以上先に実現する、現状とはまったく異なるような世界観」(p.33より引用)

 30年以上先の未来がどうなっているのか。その世界観を「MTP」を呼ぶ。では、イノベーションを起こす起業家たちはこの「MTP」をどのように設定しているのか。

 例えば、イーロン・マスク率いるテスラ・モーターズは、とんでもないスケールのMTPを持っている。テスラといえば電気自動車(EV)だが、彼らが目指しているのはEVの普及だけではない。その最終目標はゼロエミッション(廃棄物ゼロ)社会への移行であり、「エネルギー革命(サステナブル・エナジー)」を起こそうとしている。EVはその第一歩に過ぎないのだ。

 本書では、イーロン・マスクについて「1990年代前半の当時からインターネットとクリーン・エネルギーと宇宙に着目していた」と指摘。米オンライン決済大手の「ペイパル」の前身企業の立ち上げや、宇宙事業を展開する「スペースX」から、彼が見据えていたMTPが見えてくる。

 さらに近年では、採掘会社「ボーリングカンパニー」やニューロテクノロジーを開発する「ニューラリンク」の設立から、彼の強烈な未来志向がうかがえる。こうした企業を実際に立ち上げ、実現に動く彼の意志力と実行力が彼を稀代の起業家たらしめている。

「PDCAサイクル」がイノベーションを妨げていた


 イノベーションの源となる「MTP」は日本にも存在していた。近現代における日本の飛躍的な成長はまさにこの「MTP」が原動力であり、特に戦後復興から高度経済成長期の日本の躍進は、アメリカの繁栄という明確な目標世界に臨場感を高くもてたからこそ成し遂げることができたといえる。

 ところが今、日本ではイノベーションが起きづらいという声があがっている。その原因として本書があげているのが、「PDCAサイクル」に象徴される改善思考・計画主義である。

 「PDCAサイクル」は、計画と結果の差分を分析して次に活かすサイクルを回すという意味で、まさに継続的な改善に特化した手法だ。しかし、トランスフォーメーション思考のように大胆な変革をイメージするのではなく、少し先の未来を念頭に置いて、継続的に改善していくこの考え方が主流になっている以上、遠い未来に臨場感を抱き、根本から変化を起こすイノベーションは生まれにくい。

 トランスフォーメーション思考の実践は、PDCAサイクル思考から脱却することが最初のステップとなるのだ。

 ◇

 本書では、具体的にどのようにすればトランスフォーメーション思考を浸透させ、実践することができるのか、書かれている。

 日々の生活の中で「なんでこんなに不便なんだろう」「ここがこうなっていたら便利なのに」といった違和感は、必ず解消できるはず。そしてそれがイノベーションの原点となる。組織でも、個人でもこの考え方は使えるので、ぜひ参考にして欲しい。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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