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ケースで見る!「働くハイスペック女子」への処方箋

“逆差別”に苦しむ独身女性社員たち…子持ち社員のせいで業務負荷集中、感謝もされず

文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表
“逆差別”に苦しむ独身女性社員たち…子持ち社員のせいで業務負荷集中、感謝もされずの画像1「Gettyimages」より

「こんなの逆差別よ!」

 産業医面談にやってきた女性社員Sさんが、涙ながらに叫びます。外資系の保険会社での出来事でした。Sさんは独身の31歳。3カ月前に、5年間付き合った彼と別れたばかりです。

 そもそも、「逆差別」とはどういう意味なのでしょうか。Wikipediaによれば、「逆差別(ぎゃくさべつ、英語:reverse discrimination)とは、差別を是正し撤廃しようとする過程において、差別されて来た集団(主に社会的弱者)を優遇することにより、優遇されて来た集団の待遇・利益・公平感が損なわれることで生じる差別である」とされています。

 たとえば大学の入学試験において、これまで差別されてきたアフリカ系の学生のために特別枠を設け、結果としてそれ以外の学生が入学できる枠を減らし、これを人種間の平等だと称するとすれば、これはアフリカ系以外の学生に対する逆差別だと言いうることになります。Sさんの言うところの「逆差別」は、どうやらこれとは少し違う意味であるようです。

 彼女いわく、上司が夜も週末も構わず、彼女にだけ余計に仕事を振ってくるのだそうです。彼女のチームは全部で5人いて、彼女以外は男女含めすべて既婚者です。海外とのやり取りも多い部署であることから、昼夜を問わず電話会議が行われたりすることはよくあります。

 3日ほど前にも、彼女が会社の別の部署の人と食事をしていて、そろそろ帰ろうと思って店から出た夜10時に、明日朝の締切りで作業を依頼する電話が上司からかかってきました。「子育て中の人には振れないから、よろしく頼むよ」と言われれば仕方がないので、やることになるわけですが、こんなことが一度ならまだしも頻繁に起こり、そのうえ上司も周囲も特に彼女に感謝をしている感じでもなく、なぜか気づいたらいつの間にかいろいろ彼女がやることになってしまっている状況はどうしても納得できません。

 子育て中の女性を保護するために、未婚者である彼女が割を食って多くの仕事を引き受けざるを得ない状況を、彼女は「逆差別」だと言っているようです。

独身女性は「逆差別」で損をする

 Sさんは続けます。チーム内の雑談は子育ての話ばかりで、なんか仲間外れにされているような気がします。彼女自身、今は自分のキャリア構築のために仕事をがんばろうと心に決めているのですが、面と向かって「独身って時間がたくさんあっていいわね」とか「早く子供を産まないとまずいんじゃないの」などとひどいことを言われることもあって、気がめいります。

 2017年に実施されたとあるネットニュースによる調査によれば、「独身であることに関して嫌味を言われたことがある」と答えた人の割合が最も高かった年齢層は30代で、その割合は3割以上でした。具体的には、「自由な時間があっていいわね」(=だったらその分仕事ができるでしょ、という意味)などと言われるケースがあるようです。

 ひとたび結婚すれば、とりわけ子供ができれば、独身時代と比べて時間的や経済的にいろいろな制約ができてくるのは事実です。その一方で、業務上のしわ寄せが独身者に行き、長期出張や時間外の緊急対応に動員されやすくなるような状況があれば、当然のことながら不公平感につながります。

 必ずしも感謝されていないのにもかかわらず業務負担の不公平感が大きいこと、またいわば「独身者ハラスメント」ともいうべき仕打ちを受けて、Sさんは、仕事に集中できないことがだんだんと増えてきました。自宅でもやけ食いをしてみたり、こんな状態の自分を責めて悶々と考えこんでしまい、眠れないことが増えてきました。こうなってくると、もはや軽い抑うつ状態に入ってしまっています。

 近年、ある程度以上の規模の会社では、産休・育休制度の充実はもとより子供の就学以降も時短勤務を認めるなど、ワーキングマザーに十分配慮した勤務体系を認める会社が増えてきています。その一方で、仕事の総量と頭数が一定だとすれば、ワーキングマザーの業務量を減らした分だけ、誰かの業務量が増えることになります。私が知っている別の例では、周囲に隠して不妊治療をしている女性が、子育て中の女性の仕事をカバーして夜遅くまで仕事をしていた、なんてこともありました。

仲間の気持ちを忖度する一方で、努力には公平な人事評価で報いる

 現代の職場とチームのあり方は多様化しており、さまざまなライフステージにいる人たち、さまざまなライフプランを持った人たちが協働して成果を上げることが求められています。働き手の大半が男性で、少数のキャリアウーマンがいて、一般事務職の女性がこれらを支える、という職場構造は過去のものになりました。周囲から見れば、Sさんのようなハイスペック女子は、「モーレツ社員」(死語でしょうか)で、キャリア志向で、子育て女性から何を言われようとあまり気にしていないように映るかもしれません。

 ですが、本当はとてもつらい気持ちで残業をしているのかもしれない、という想像力を働かせることは重要です。子育て支援が制度として充実していくのは大変良いことですが、職場でそれを当然の権利として主張するようなことがあるとすれば、それはやりすぎです。子育て中は、やむなく時短勤務や急な欠勤などをしてしまうことがあります。その裏で業務をカバーしてくれている同僚への感謝の気持ちを忘れてはいけないと思います。

 人事評価制度の問題もあるかもしれません。人事評価は会社の業績への貢献度に応じて公平に行われなければならず、たとえば、子育て中の女性に上司が過剰に配慮して、いわゆる「下駄をはかせる」評価をするようなことがあってはいけません。冒頭のように「逆差別よ!」などと言われてチーム全体としての生産性が落ちてしまうようなことがあっては、なんのための子育て支援制度なのかわからなくなってしまいます。

 相手の立場を尊重し、相手の気持ちを忖度すること(最近「忖度」は主に悪い文脈の中で使われていますが、これはいい意味での忖度です)は、人間関係を円滑にするための基本ですよね。
(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

矢島新子/産業医

矢島新子/産業医

矢島新子
山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。
株式会社ドクターズヘルスケア

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