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労働は義務ではない「世界一幸せな国」に住む人々の生き方

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※画像はイメージ(新刊JPより)。

 世界でも幸福度の高い国としてよく知られているフィンランド。国連による世界幸福度レポートで2018年から5年連続で1位とゆるぎなく、ジェンダーギャップ指数は156カ国中総合2位(2021年)、デジタル化においても先進国だ。

 しかし、30年前のフィンランドは今と大きく違っていたようだ。1991年から30年以上にわたりフィンランドで暮らしている岩竹美加子さんは、当時のフィンランドについて「外国人は少なく、あまり国際的ではなかった」と振り返る。

 当時は共産主義のソビエト連邦と民主主義・資本主義の西欧との間で難しい立場にあったフィンランド。しかし1991年にソ連が崩壊し、1995年に欧州連合に加入すると、「西欧的」なものを志向し、同一化していく。岩竹さんの著書『フィンランドはなぜ「世界一幸せな国」になったのか』(幻冬舎刊)は、現地で感じてきた30年の変化の経験を背景にしつつ、幸福度世界一となったフィンランドの今の姿を捉える一冊だ。

「仕事」「労働」、日本とフィンランドはこんなに違う

 「労働」「仕事」を見ても、日本とフィンランドでは大きく違う。

 たとえば、日本では日本国憲法第27条第1項で「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」とされている。これは教育、納税とともに、国民三大義務の一つとなっている。

 一方、フィンランドでは「労働」は義務ではないという。フィンランド憲法が市民の義務としているのは、納税と国防の2つ。国防義務は、男性にとっては兵役、市民にとっては緊急時に支援する義務となる。

 また、日本では特に高い地位にいる人は、70代、80代になってもその地位に執着し続けることが多い。ところがフィンランドでは68歳が最終的なリタイアの年齢だが、再就職というシステムはなく、天下りもないという。仕事を離れて自由な時間を楽しみたいという希望の方が強いのだという。

フィンランド人は自分の地位に執着しない生き方をする

 さらに、フィンランド人は、積み重ねてきたキャリアを捨てて新たな挑戦をすることをいとわない。

 フィンランド銀行、財務省などの組織のトップのポジションを歴任したアンネ・ブルニラ氏は2013年に56歳で国営電力会社フォータムからリタイアすると、その後は文化財団や大学、国立歌劇場といった文化・教育組織で委員などを務め、さらに若い頃から興味を持っていたチベット仏教に傾倒するなど、人生を大きく転換させた。

 また、40歳で博士号を所得。フィンランド銀行頭取時代には、財政政策に関する論文で博士号を取ったのだが、その論文を書くために約1年銀行の研究部門に所属し、頭取の仕事は他の人が代行したという。

 こうした働き方、生き方をのぞくと、人生の多様性が見える。岩竹さんは「人と同じように生きなければならないのではなく、自分の人生を生きていける社会」であると述べる。自分の仕事、自分の地位に執着をすることなく、思い切ったかじ取りができるのがフィンランドの社会なのだろう。

 ◇

 本書では、デジタル化政策や教育、出産・育児、医療・介護といったトピックを、フィンランドの歴史や文化を背景にしながら解説していく。

 岩竹さんは「おわりに」の中で「現在のフィンランドは、人々のウェルビーイングを第一に考えた国の形であり、ケアする国家とも呼べるだろう」とまとめている。ウェルビーイングは「幸福」や「健康」などと訳されることが多いが、実はとても幅広い概念である。そして、本書を読み進めていくと、「ウェルビーイング」の本質が見えてくる。

 「ウェルビーイング」で何歩も前を行くフィンランドを通して、日本の課題が見えてくる一冊だ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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