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鈴木謙介さんインタビュー

仕事と私生活の境目が曖昧になる……ウェブ社会で誰もが直面する煩悶への立ち向かい方

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仕事と私生活の境目が曖昧になる……ウェブ社会で誰もが直面する煩悶への立ち向かい方の画像1鈴木謙介氏
 なぜ、恋人がデート中に携帯電話をいじっているとイラッとするのか–。誰もが一度は覚えたことのあるそうした不快感の正体を理論的に説明し、現代社会の課題点を指摘する新著『ウェブ社会のゆくえ <多孔化>した現実のなかで』(NHKブックス)が刊行された。インターネットやスマートフォンが普及したことにより、あらゆる情報が行き交うようになった現在。便利になった一方で、我々は新たな煩わしさやトラブルに晒されるようになってしまった。そんな現実を、ビジネスマンはどうサバイブしていくべきなのか。著者の社会学者・鈴木謙介氏に話を聞いた。
仕事と私生活の境目が曖昧になる……ウェブ社会で誰もが直面する煩悶への立ち向かい方の画像2『ウェブ社会のゆくえ <多孔化>した現実のなかで』 発行/NHK出版 価格/1050円(税込)
–まずは、本書のキーワードとなっている<多孔化>という言葉の意味からご説明ください。

鈴木 「本来は、この場所ではこうあるべきだ」というTPOを超えて、外部から情報やコミュニケーションが出入りしてしまう状況のことを指す言葉です。現実空間に無数の穴が開くというイメージから<多孔化>と名付けました。抽象的な概念に聞こえるかもしれませんが、現実的に私たちが日々直面している状況だと思います。

–本書の中では、わかりやすい例として、「恋人がデートの時に携帯をいじっている」という状況も提示されていましたね。本著を読んで、「ああ、こういうことよくある」と身につまされる思いでした。

鈴木 世代にもよるみたいで、おじさん世代だと「そんなこともあるんですね」という感想が多かったけれど、若い世代は「あるある!」って(笑)。でも、会社の電話に子どもから電話が掛かってきても、「パパでちゅよー」って言えない感覚は、上の世代でもピンとくるんじゃないかな。職場にいる時に、恋人からLINEでメッセージが来たり、逆に食卓で家族が食事しながらスマホを見ていたり、といったことも同じです。その場の意味、家族といるなら「家庭という場」の意味を維持するためには情報やコミュニケーションが出入りするのをシャットアウトしなければいけませんが、実際には仕事上それができない状況のほうが多いでしょう。

–「現実空間の特権性」が失われてきたと、本著では表現されています。

鈴木 はい。デート中の携帯電話の例で言うと、不快に思うのはまっとうな感覚ですよね。でも、<多孔化>した社会では、「目の前にいる人が、どこか遠くにいる人よりも大切」という前提が相手に共有されているとは限りません。つまり、こうした状況が、現実空間の特権性が失われてしまっている状態なんです。さらに、<多孔化>した現実で厄介なのは、「自分はネットをあまり使わないから関係ない」では済まされないということ。これはよく僕が使う比喩なんですが、車を運転しない人であっても、誰かが運転する車に乗ることもあるし、車で運ばれてきた弁当を食べることもあるわけで、「車社会」と関係ないとは言えない。それが前提になって社会が回っているため、使わないからといってネットと関係なく生きることはできません。誰もが直面し得る問題なんです。

–スマートフォンが普及して以来、どこでも仕事のメールや書類をチェックできるようになりました。便利ですけど、一方で煩わしさを感じている人も多そうです。

鈴木 今は24時間メールをチェックできて、半日以内には返信がもらえるという前提で社会が回っていますから、どこかで線引きしないと、1日中働くことになってしまいます。ちなみに、僕は「自宅に帰ったら仕事のメールは見ないようにする」という一応のルールを設けています。

–でも、相手がいることなので、「すぐに返さないと!」と思ってしまいがちです。

鈴木 それを避けるために、「できる」と「やらなければいけない」とが違うことを肝に銘じておかなければならないと思います。できなかった時代には考えなくてもよかったことが、「できる」ようになってしまったせいで、やるかやらないか選ばなければいけないようになってきてしまった。しかし、現実的に日本では「できる」ようになったら、だいたいは「やらなければいけない」ということになってしまいがちです。今後、「やらなければいけない」かどうかの選択をしなければいけない場面が増えてくると思いますよ。

●冷蔵庫に入った写真を投稿する理由

–一方で最近では、SNS上で同僚や上司と繋がりたくないという声もよく聞きます。

鈴木 多いですね。僕らはみな一人の人間として生きていますが、時と場合、対面する相手によって、いろんな役割を使い分けています。にもかかわらず、SNSでは一つのアカウントにすべてが集約されてしまう。実名性のFacebookが普及してからは、なおさらです。だから、上司や親など繋がりたくない人が出てくる。学生に話を聞くと、最近では「前の彼氏のときはFacebookの交際ステータスを『交際中』にしていたのに、俺にはしてくれない」なんてトラブルもあるようです(笑)。

–具体的に、我々はどのようなことを心掛ければいいのでしょうか?

鈴木 まずは、「選択できる」ということを意識し、コントロールしていくこと。先ほどの仕事のメールを家で受けるかどうかにしても、SNSにしても、自分で運用ポリシーを決め、線引きしていくことが大切です。メールだったら受け付ける時間を決める、SNSだったら投稿によって公開設定を変えることもできます。ただ、あまりポリシーにこだわりすぎるのもよくありません。「この人にはメールの返信が遅れてしまったから、次はフォローしよう」などと長い目で見たトータルの関係を考えていく必要があります。

–「情報が出ていく」の側面でいうと、最近、飲食店のアルバイト店員が冷蔵庫に入った写真をTwitterに投稿して炎上するといったトラブルが問題になりました。

鈴木 その質問は、この1週間だけで数え切れないほど受けました(笑)。あの問題については、「善悪の区別がついていない」という批判がありましたよね。しかし、ロジカルに考えるとまったく逆で、悪いと分かっているからこそ面白がって写真を投稿してしまうわけなんですよ。つまり善悪の区別がついているからこそ、起こってしまったトラブルなんですね。「逸脱論」といって社会学の基本中の基本にある考え方です。会社組織がやってほしくないことを、TPOをわきまえずに「友達が面白がるから」と軽はずみにやってしまっているのでしょう。

BusinessJournal編集部

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『ウェブ社会のゆくえ <多孔化>した現実のなかで』 「いま・ここ」が、様々なウェブの情報空間とスマホ等をとおして結びつく<多孔化>。いまや私たちの現実は多孔化という大きな変容をうけ、それは共同体の危機にまで結びついている。デート中にtwitterをのぞく恋人やFacebookに位置情報をアップするフレンドで成り立つ社会の形とは? いま最も注目される社会学者による、待望の書き下ろし! amazon_associate_logo.jpg

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